
男性読者による投稿欄「男の気持ち」。「女の気持ち」とともに出来事や悩みなど「時代の心」を映しています。
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初恋の秋 埼玉県嵐山町・金内二郎(無職・75歳)
2023/9/19 02:00 539文字小中学校時代、クラスに1人くらいは必ずいたのが、運動会や写生会のときにだけ人気者になる男の子だ。私がそうだった。勉強はあまりできないが、かけっこが速く、絵を描いたり工作をしたりすることが上手だった。 運動会が近づくとドキドキと心ときめかせた。といっても、かけっこの成績が気になるだけではなかった。中
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マッチの記憶 福岡県宗像市・本村隆(93歳)
2023/9/14 05:20 549文字電気蚊取り器の蚊取りマットが無くなり、スーパーに買いに行ったが、品切れだった。やむを得ず蚊取り線香を買ったのはいいが、いざ火を付けようとしたらマッチが無い。考えてみれば、自宅をオール電化にして13年になる。ガスや石油ストーブを使わなくなり、マッチが無くても何も困らなかった。 子どもの頃、マッチは生
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大型ラジカセ 宮崎市・谷口二郎(産科医・73歳)
2023/9/9 05:09 582文字先日届いた分厚い通販のカタログに、大型ラジカセが載っていました。ラジカセのサイズは幅60センチ、高さ30センチ。商品紹介の文句はこうです。「一世を風靡(ふうび)した大型ラジカセが最新機能を携えて復活」 1980年代、大型ラジカセがアメリカで大流行し、日本でも、はやりました。私も幅80センチくらいあ
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ご機嫌の理由 滋賀県栗東市・高橋裕(無職・77歳)
2023/9/5 05:08 514文字外出先から帰ってきたカミさんがえらくご機嫌である。「何かいいことでもあったの?」と聞くと、カミさんいわく、人さし指にばい菌が入って痛くてたまらなくなり、近くの医院で切開してもらったとのこと。そして、処方箋を持って薬局に寄ったところ、応対してくれた薬剤師の男性が若くてイケメンだったそうな。 「それが
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親友の思い出 宮崎県日向市・赤木保吉(福祉施設職員・70歳)
2023/9/4 05:13 565文字「まさかこんなことになるとは思わなかった」。自分の足で歩けなくなった親友が、胆管がんで亡くなる2日前に残した言葉だ。1カ月前までは、宣告された余命にあらがうように働いていた。 幼い時から、近所でいつも一緒だった。日没まで、川や海や山で戯れ、あらゆるごっこ遊びにふけった。遊ぶことに飽きたというぐらい
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先人に学ぶ 大分県国東市・安達郁雄(塾講師・83歳)
2023/8/31 05:13 596文字私は今、市の公民館講座で古典の講師を務めており、受講生に名著の書き写しを課している。一昨年は鴨長明の「方丈記」だった。私もそれに付き合い、一字一字写していく中で、改めて当時の悲惨な状況に思いを致した。 特に胸を突かれたのが養和の飢饉(ききん)(1181~82年)のくだりだ。「親子ある者は、定まれる
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夏が終わる 神奈川県茅ケ崎市・増野遥仁(中学生・14歳)
2023/8/31 02:00 528文字初めてこのような欄に投稿する。実はこれは、私が通う中学校から出された社会科の夏休みの宿題だ。 私の中学校が出す宿題の量は毎年、とにかく多い。問題集の何十ページにもわたる問題を解き、丸つけと答え合わせ。ほかにはプリント学習をしたり、実験を行ってリポートを書いたり。今年は美術や家庭科の宿題もある。 い
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双生児 福岡県岡垣町・中山陽一(89歳)
2023/8/30 05:09 520文字空襲の焼け跡が残る昭和21(1946)年春、両親に5番目の子が誕生した。男と女の双生児だった。長男の私がまだ小学校6年生の時だ。 当時は終戦後の混乱期で食糧不足。人々は食べるため血眼になっていた時代だった。家の食事もサツマ芋と小麦粉が食材だった。 食糧事情は乳幼児の成育に影響した。ミルクは高価で手
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線香花火 川崎市幸区・和田優斗(大学生・20歳)
2023/8/30 02:01 538文字地方の大学に進学したが、長期休みは地元の旧友と必ず会うようにしている。 この夏も先日、中学時代の友人たちと集まった。中学生のころはわずかな小遣いを握りしめてカラオケ屋に集っていたが、気が付けば成人。たくさんのお酒を並べて飲むようになった。春、夏、冬に毎回集まることがかなうのは幸運だと思う。 この1
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同じ人生を! 大阪府大東市・上田忠男(無職・80歳)
2023/8/29 05:28 557文字昨年冬に傘寿を迎えた。難聴で会話が少し不便になった以外は、歩くことも食べることも不自由なく健康に過ごせており、感謝している。たまに会う友人に「何の薬も飲んでいない」と言うと、皆びっくりする。「小さい頃からあまり強くなかったお前が」と、亡くなった兄弟からも羨ましがられた。きっと、背伸びをせず、体をい
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マレーシアの旅 宮崎市・竹本光伸(無職・72歳)
2023/8/27 02:01 536文字28歳の時、マレーシアを旅した。首都・クアラルンプールの街に出て、2時間ほど歩いて疲れたので公園で一休みしようと探したが、見つからない。そこで通り掛かりの少年に道を尋ねた。 少年は親切にも自分が案内すると言い、一緒に公園まで行きながら話をした。中学2年生の彼の趣味は記念切手の収集で、父親が警察官を
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土用の丑の日 長崎市・下野泰治(85歳)
2023/8/25 05:13 562文字夏の土用の丑(うし)の日を毎年楽しみにしている。私はうな丼が大好きで、今年もその日の前後に妻が何回か作ってくれ、感謝しながらいただいた。 私とウナギとの関係は、中学2年のときに始まった。二つ年上の兄が、私にウナギ取りを指南してくれた。 ウナギを捕獲する竹製のテボは入り口の直径が10センチ、長さは5
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生きがい 長崎県佐世保市・多久島忠(84歳)
2023/8/18 05:12 546文字退職後に覚えた釣りも、今では生きがいだ。この暑い中、愛車のバイクに釣り道具一式を積み、近くにある小さな漁港の波止へ向かう。ここは私の“釣り天国”だ。 閑散としていた波止もようやく、アジゴやサバゴが群れで回ってくるようになった。サビキ仕掛けでさおを出した時の、ググッとした当たりの手応えはたまらない。
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久しぶりの古里 秋田市・土谷実(無職・79歳)
2023/8/16 02:00 558文字7人のきょうだいが生まれ育った生家がなくなって半世紀以上になる。古里にはほとんど行く機会がなかったが、傘寿の同期会があり17年ぶりに行ってきた。 思い出のいっぱい詰まった生家跡地は一面雑木や雑草、特にクズやカヤに覆われていた。跡地に立ち感慨にふけっていると、働き者の父が炎天下で大粒の汗を流して働い
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祖母の悲しみ 宮崎市・柏木正樹(74歳)
2023/8/15 05:40 575文字父は晩年、自伝を出版した。その中に「戦争中のことを書くにあたって母の手紙の箱を捜したが、なかった」とある。私が知るそれは、背広の箱二つで、古い封書やはがきが入っていた。検閲印のある軍事郵便や、見知らぬ兵士からの慰問袋のお礼、父や叔父の戦地からの便りなどだ。 祖母は戦争中どれだけ心細かっただろう。夫
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陶器の温かみ 長崎県諫早市・江川謙吾(パート勤務・70歳)
2023/8/12 05:19 553文字毎朝、ごつい皿にパンを乗せ、縁が水平でないマグカップに牛乳を注いで食事をする。パンは、近くの福祉施設で販売しており、あんパン、ジャムパンなど種類は少ないが、手作りでおいしい。食事に使っている陶器は、障害者の皆さんの創作活動の作品だ。 近くの公園の祭りで、地元のすしやまんじゅうの横に、家庭で使う陶器
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回天記念館にて 奈良市・松下保彦(アルバイト・56歳)
2023/8/11 05:07 533文字全国旅行支援を利用して山口県周南市の回天記念館を初めて訪ねました。記念館のある大津島には戦時中に回天の基地が造られ、ここから多くの若者が南の海に出撃していきました。そのことは不幸な出来事としてずっと私の心の中にありました。 たまたま記念館のことを知り、訪れました。記念館の前には回天のレプリカと魚雷
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厳しい決断 北九州市小倉北区・小川龍二(78歳)
2023/8/8 05:10 550文字気が進まなくても決断しなければならない時がある。過日、老いた母親の終末期医療に関し、特養老人ホームの嘱託医から問い掛けがあった。さまざまな条件を勘案した上で、それ以上の延命が疑問に思われる場合、どのような治療を望むのか、という問題だ。 特養側が用意したのは「延命治療に関する意思確認書」。母親は今年
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冷やし中華 埼玉県越生町・宮崎功(無職・80歳)
2023/8/4 02:00 526文字私は1942(昭和17)年に生まれ、戦後の厳しい食糧難の時代に育ったので、食べものに関しては数多くの思い出がある。本格的な夏が始まると、特に思い出されるのは冷やし中華だ。 今から60年前の学生時代、夏休みに東京・新宿の伊勢丹デパートのパーキングビルで交通整理員のアルバイトをしていた。駐車場の空きス
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墓参り 長崎市・松下清(74歳)
2023/8/3 05:13 559文字7月下旬、やっと九州北部地方も梅雨が明けた。良い天気になったので家の墓参りに出掛けた。月に2回ほど墓に参るが、その際は必ず、生花を供えてきた。 しかし、暑さで生花は3、4日ほどで枯れる。夏が来る度、生花でなく造花に代えようと妻と話をするが、亡くなった母が花好きだったため、そのままになっていた。とこ
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