ユーグレナの出雲充社長(左)とリバネスの丸幸弘CEO=東京都港区で長谷川直亮撮影
ユーグレナの出雲充社長(左)とリバネスの丸幸弘CEO=東京都港区で長谷川直亮撮影

IT・テクノロジー躍動する科学ベンチャー

ミドリムシで上場したバイオベンチャーの野望

丸幸弘 / 株式会社リバネス最高経営責任者

対談:ユーグレナ出雲社長×リバネス丸CEO(1)

 人工知能を搭載したロボットの進化、遺伝子操作技術を使った農産物の生産性向上など、テクノロジーやサイエンス分野から新たなビジネスが次々と生まれている。その主役は「サイエンスベンチャー」と呼ばれる新興科学企業だ。この分野の草分けである株式会社リバネスの丸幸弘・最高経営責任者(CEO)を案内役に、サイエンスベンチャーの最前線を探る。連載第1回は、微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)の屋外大量培養を基礎に、機能性食品や化粧品を開発する東証1部上場の株式会社ユーグレナ・出雲充社長と対談してもらった。4回に分けてお送りする。【構成・田中学】

 ◆リバネス丸幸弘CEO 初回にユーグレナ社の出雲さんに出てもらうのは、ミドリムシをコアに、栄養問題やエネルギー分野に挑んでいて、2012年12月には東証マザーズに上場、14年12月には東証1部への変更を果たしたからです。私自身、ユーグレナ社の技術顧問として研究開発のお手伝いをしており、その成功の背景に迫りたいと思いました。

 ◆ユーグレナ出雲充社長 丸さんには、05年の創業時から技術顧問として叱咤(しった)激励してもらっていますね。ミドリムシの屋外大量培養に成功したものの、ビジネス面、資金面で苦しみ、あと一歩で倒産という状況に追い込まれた07年、顧問料を払えなくなった私たちを支えてくださいました。とても感謝しています。今日はよろしくお願いします。

リバネスの丸幸弘CEO
リバネスの丸幸弘CEO

※株式会社リバネス:2001年創業の知識プラットフォームベンチャー。社員約50人のほとんどが理系の修士・博士号取得者。企業と連携し、科学をベースにした新しいビジネス創出に力を入れる。本社・東京都新宿区。

※株式会社ユーグレナ:2005年創業。ミドリムシの屋外大量培養に成功し、食品や燃料、化粧品分野に進出。12年に東証マザーズ上場、14年東証1部に変更。従業員数100人、14年度売上高は約30億円。本社・東京都港区。

ミドリムシでなくてもよかった

 ◆丸 世間ではサイエンスやテクノロジーはビジネス、あるいは金にならないと言われることが多いのですが、実際、出雲さんはサイエンスをコアに起業しました。いつごろからサイエンスに興味を持ったのですか。

 ◆出雲 もともとサイエンスで起業したかったわけではありません。1998年、大学1年生だった私は夏休みを利用して、マイクロファイナンスで知られるバングラデシュのグラミン銀行でインターンをしたんです。その時、現地の人たちが栄養問題に苦しんでいることを知りました。各国が食料を支援しているのですが、バランスよく栄養を取れず、多くの命が失われていました。どうしたらそれを解決できるのかと考えたことが発端です。大学入学時は文系で、その後農学部に移りました。栄養問題を解決するにはサイエンスが必要でしたから。

 ◆丸 つまり、解決できるのであればミドリムシでなくてもよかった、と。

ユーグレナの出雲充社長
ユーグレナの出雲充社長

 ◆出雲 そうですね。ただ、ミドリムシは人間が必要とする栄養素のほとんど、実に59種類を作れるので、栄養問題を解決するのにぴったりなことが分かっています。少しずつですが解決に近づけている実感もあるので、今はミドリムシから浮気しようとは思いません(笑い)。

 ◆丸 大切なのはサイエンスやテクノロジーを探す場所。そしてタイミングも重要です。出雲さんは大学卒業後就職しましたが、1年で退職して今の道を探り始めた。

 ◆出雲 24歳の時です。当時26歳だった丸さんに会ったのもそのころでした。

 ◆丸 大学を出て時間がたっていなかったので、大学の研究室と距離が近かった。課題を解決するために、いろいろな先生を訪ねて多くのヒントを得ましたよね。

 ◆出雲 当社の研究開発担当取締役である鈴木健吾はそのころ現役の大学院生で、研究室にいましたしね。

 ◆丸 鈴木取締役と私はともに研究対象が藻類です。強烈に覚えているのが、みなで酒席を囲んでいて栄養問題の話になった時のこと。出雲さんは仙豆(せんず=注)のようなものを探していて、鈴木さんがミドリムシの特徴を伝えると、「なんでそれを大量生産してみんなに配らないの?」と興奮して言いましたね。

 ◆出雲 そうでした。

微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)
微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)

 ◆丸 科学者はまずミドリムシの生態を解明したがります。出雲さんのように「みんなに配ろう」という発想はなかなか出てこない。その一言で科学者を巻き込み、実際に行動を起こし、ミドリムシの屋外大量培養ができた。テクノロジーを持つ人と課題を解決したい人が融合した時、サイエンスベンチャーの両輪が回り始めるのだと実感しました。

培養の失敗で1回数百万円の損失も

 ◆丸 先行研究の蓄積があったとはいえ、屋外大量培養の実験を数年で成功させたのはすごい。それまでの数十年は誰もできず、研究室内の試験管で月にスプーン1杯分の培養がやっとでしたから。みなに配るために屋外大量培養に挑むというアプローチ、このリスクをとれるかどうかが重要です。

 ◆出雲 50メートルプールで実験しましたが、失敗すると一度に数十万円が消えるんです。最終段階で失敗すると数百万円の損失。数百万円の失敗が1〜2回だったので助かりましたが。

 ◆丸 経営にはコア技術、アイデア、顧客ニーズ、経営者の思いのどれもが必要だと思いますが。

 ◆出雲 すべて大切です。時間の流れや状況の変化で大切さの重みは変わります。コア技術があってもアイデアがなければ会社を起こせないし、商品とお客様のニーズと合致しないといけない。経営が苦しい時は、経営者の強い思いが社員の奮起につながります。

(注)仙豆:鳥山明さんのマンガ「ドラゴンボール」に登場する魔法の豆。1粒食べれば体力、ケガが回復し、数日間腹が満たされる。

 <次回は6月30日掲載です>

(2)日本の課題を解決するコア技術で世界に打って出る

(3)科学をビジネスに育てる「コミュニケーター」という役割

(4)東京五輪2020年、ミドリムシで訪日外国人を驚かせる

躍動する科学ベンチャー 記事一覧

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丸幸弘

丸幸弘

株式会社リバネス最高経営責任者

1978年神奈川県生まれ。東京大学大学院在学中の2002年6月にリバネスを設立。「最先端科学の出前実験教室」をビジネス化した。大学や地域に眠る経営資源や技術を組み合せて新事業のタネを生み出し、200以上のプロジェクトを進行させている。著書『世界を変えるビジネスは、たった1人の「熱」から生まれる。』(日本実業出版社)がある。

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