グローバル海外特派員リポート

英国に浸透する日本型警備サービス・セコムのすごさ

坂井隆之 / 毎日新聞・前欧州総局特派員(ロンドン)

 自動車をはじめとする日本企業のモノ作りの強さは、世界に鳴り響いている。だが、サービス業となると、世界で戦える企業は少数派だ。1分の遅れもなく運行される鉄道を見てもわかる通り、サービスの質は世界最高水準と言える。だが、それを担うのは人間だけに、「輸出」は難しい。必然的に狭い国内でサービスの質を競い合い、経営体力を擦り減らす、というのが日本のサービス業の大きな問題になっている。

 こうした悪循環を乗り越え、遠く離れた英国で着実に業績を伸ばしている企業がある。警備業最大手のセコムだ。7月、ロンドンにある同社英国法人を訪ね、竹澤稔社長(52)に話を聞いた。

英国のやり方と、日本型きめ細かさの必然の衝突

 そもそも英国の警備業の業態は、日本とはだいぶ違う。警備会社は基本的に警報機を売るのが仕事で、侵入を感知してもアラームが鳴るだけ、警察に自動通報するだけ、という会社がほとんど。メンテナンスが不十分なため誤作動も多く、住宅街で警報が鳴り響いているのに誰も見向きもしない、というのは英国でよく見かける光景だ。

 英国の警備会社を1991年に買収した後、初の日本人社長として2001年に赴任した竹澤さんは、日本型サービスの導入に本格的に取り組んだ。カメラを設置して24時間の遠隔監視を行い、希望する顧客からはカギを預かって、異常があれば警備員が即座に確認に向かう。日本では当たり前のきめ細かなサービスは、英国では画期的だった。

英国セコムの指令センター。警報が作動するとただちに監視カメラの映像が映し出され、オペレーターの指示が飛ぶ=坂井隆之撮影
英国セコムの指令センター。警報が作動するとただちに監視カメラの映像が映し出され、オペレーターの指示が飛ぶ=坂井隆之撮影

 だが、コストがかかる分、価格競争では当然不利になる。本社からたった一人で乗り込んだ竹澤さんに、英国人幹部らは「アイデアはすばらしい。だが、英国のやり方は違う」と抵抗した。

 竹澤さんは「安全を願う気持ちは、日本人も英国人も違いはない」と訴え、社員から「自分ならどんなサービスを受けたいか」の意見を求め、それを集約して目指す方向を示した。

 通報への的確な対応などで顧客から感謝された事例があれば、ただちに出向いて職員を表彰し、全支店に周知した。「きちんとしたサービスをすれば顧客からの感謝や新たな契約獲得の形で返ってくるという経験が、何より社員を育てる」からだ。

日本の研修で「サービスへの意識変わった」

 もう一つ効果を発揮したのが、将来を担う人材と判断した若手社員の日本での研修。指令センターの様子や警備現場を見て回るだけでなく、日本の空港や鉄道、ホテルのサービスを実際に見て、日本のサービス水準を体感させる。

 02年に研修に参加した本部指令センター責任者、ポール・マックイーンさん(50)は「何より印象に残ったのは『一貫性』。高級ホテルだけでなく、駅など普通の場所でも、驚くほど高水準のサービスが浸透していた。サービスに対する意識が変わった」と話す。

現場とオペレーターのやりとりを見守る竹澤さん(右)。全英の拠点や警備先を、自らハンドルを握って視察に回るという=坂井隆之撮影
現場とオペレーターのやりとりを見守る竹澤さん(右)。全英の拠点や警備先を、自らハンドルを握って視察に回るという=坂井隆之撮影

 竹澤さん自身が社員の変化を実感したのは、車も走れないほどの豪雪がロンドンを襲った11年1月。「誰も来ないだろう」と思って出勤したところ、指令センターの職員は全員が歩いて出勤し、通常通り業務にあたっていた。「単なる通報の受け手ではなく、指揮・命令する中枢部隊」と手塩にかけて育てた社員の姿に、「英国でも勝てる」と確信したという。

時間をかけて社員を育てた結果としての「成功」

 価格競争では依然苦戦を強いられている。だが、HSBCとロイヤルバンク・オブ・スコットランド(RBS)という2大銀行グループや、薬局チェーン最大手など、「安全確保が企業価値に直結する」(竹澤さん)企業が相次いで警備をセコムに切り替えるなど、日本型サービスは着実に差別化を果たしつつある。

 「いくら日本で成功したビジネスモデルでも、社員の質が伴わなければ成果は得られない。現地に合わせて修正しつつ、時間をかけて粘り強く社員を育てることが大事。いったん社員が育てば、日本のサービス業が簡単に負けることはない」という竹澤さんの言葉は、海外進出を目指す日本のサービス業にとって大きなヒントになると感じた。

 <「海外特派員リポート」は原則、土曜日に更新します。次回は8月15日掲載です>

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坂井隆之

坂井隆之

毎日新聞・前欧州総局特派員(ロンドン)

1973年、京都市生まれ。広島大学大学院修了。98年毎日新聞社入社。千葉支局を経て、2003年から経済部で証券、自動車、日銀、金融庁、財務省などを担当。12年10月から欧州総局経済担当特派員として、英国をはじめ欧州、中東、ロシア、アフリカの経済ニュースをカバーした。16年10月から再び経済部。

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