米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO
米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO

IT・テクノロジーニュースアプリ最新事情

フェイスブックが「ニュースアプリ」の息の根を止める!?

まつもとあつし / ジャーナリスト

ニュース事業者のビジネスモデル(3)

 日本経済新聞社が英紙フィナンシャル・タイムズを買収する、米大手通販サイトのアマゾン創業者、ジェフ・ベゾス氏が米紙ワシントン・ポストを買収する−−少し前なら想像もしなかったようなことがニュースの世界で次々と起こっている。変化を促しているのは、ニュースのデジタル化と、スマホやソーシャルメディアの普及だ。単に情報を得るだけのニュースから、共有され行動を促すニュースへ。その変化は私たちに何をもたらすのか。

ネット上で個別の記事を収益化する難しさ

 ニュースがジャンルごとに分類され、重要度に応じて限られた紙面にレイアウトされる新聞。忙しいビジネスパーソンにとって情報入手の効率が良い。紙にせよデジタルにせよ、そのパッケージは一定の支持を得ている。毎月定額で新聞を購読する伝統的なモデルも、事業者・読者ともに慣れ親しんできたものだ。

 一方、パッケージ化された新聞はデジタルであったとしても、ツイッターやフェイスブックのようなソーシャルメディアでの共有とは相性が悪い。多くのコンテンツに無料でアクセスできるという、インターネットの文化とも隔たりがある。

 インターネット上で無料で読むことができ、共有、拡散される記事は、そのページに表示される広告もよく見られるという意味で、優良なコンテンツだ。ニュース事業者が収益化を考える際に、個別の記事をインターネット上にどのように提供するかは、事業者にとって非常に重要だ。

ニュースとソーシャルメディアの相性

 ソーシャルメディアとニュースの組み合わせが生む価値に目を付けたのが、世界最大のSNSサイトの米フェイスブックだ。読者の中にも、フェイスブックに自分のコメントとニュース記事のリンクを投稿し、友人と意見を交換した人もいるだろう。

 フェイスブックなどのSNSでは、記事のURLを投稿欄内に書き込むと、自動的にその記事ページの写真が読み込まれ、リンクが生成される。フェイスブックのニュースフィード(投稿を一覧できるページ)には、リンク先の記事をイメージさせる画像が表示され、より記事がクリックされて読まれる効果を生んでいる。そして、その記事は「いいね!」が押されたり、シェアされたりすることで、ツイッターのリツイート同様、拡散していく。

 しかし、こうした形の記事の共有には課題があった。記事のリンクが投稿されるため、スマホアプリのフェイスブックでリンク先の記事本文を読もうとすると、いったんアプリからウェブブラウザーに切り替わり、ニュースサイトのページに移動しなければならないのだ。フェイスブックを見ていたはずが、いつのまにかニュースサイトの記事を読んでいて、アプリに戻るのに苦労する、といった経験を持つ読者も多いはずだ。

フェイスブックが挑む新たな仕組み

 今年5月にフェイスブックが発表した「Instant Articles」は、これまでユーザーがリンクする形でしか表示されなかった各社のニュース記事を、アプリ内から移動することなく読めるようにする取り組みだ(注1)。すでに米紙ニューヨーク・タイムズ、米NBCなどが参加している。

 特徴的なのは、そこで得られる広告収益をすべてメディア側に提供する点だ。フェイスブックとしては、アプリ内にユーザーがとどまり続けることに重点を置いた。メディア側は、フェイスブックが提供するデータ閲覧用のAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェース)で、ユーザーの行動データを一定の範囲で取得できる。

 フェイスブック、ニュース事業者双方にメリットがあるこの仕組みは、スマホにニュースアプリをインストールしてニュースをチェックするのとは、異なるサービスのあり方を提示している。識者の中には、「ニュース専用アプリはもういらなくなる」という見方すら出てきた。

 紙のスタイルを踏襲したデジタルパッケージの有料販売と、細分化された個々の無料コンテンツの拡散からの広告収益。これらをどのように組み合わせるか。そのためにITプラットフォーマー(運営事業者)とどう向き合うか──相次ぐ買収劇は、ニュースをビジネスにしたい事業者が規模という力を得て、その交渉力や選択肢をより多く持ちたいという狙いの表れでもある。

(注1)Instant Articles:Facebook

 <次回は9月5日掲載です>

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まつもとあつし

まつもとあつし

ジャーナリスト

ITベンチャー、出版社、広告代理店、映像会社などを経て、現職。ASCII.jp、ITmedia、ダ・ヴィンチなどに寄稿。著書に「知的生産の技術とセンス」(マイナビ/@mehoriとの共著)、「ソーシャルゲームのすごい仕組み」(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。

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