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「ネット強制導入」で脱・下請け目指した経営者の20年

中村智彦 / 神戸国際大学教授

 9月17日掲載「独立心が何よりも大事な京都経営者魂」で紹介した、京都の中小企業若手経営者の会「京都機械金属青年連絡会」(機青連)。

 独立心旺盛な彼らは2001年、「京都試作ネット」をスタートさせた。金型や基板の試作加工に特化した事業で、顧客の問い合わせに対し、2時間以内に見積もりを返すことを徹底している。

 この成功事業「京都試作ネット」はどんなビジネスモデルなのか。それを見る前に、設立までの経緯をたどってみよう。

「顧客の創造」とはすなわち下請けからの脱却

京都試作ネットのホームページ
京都試作ネットのホームページ

 機青連は、「マネジメントの神様」と呼ばれるピーター・F・ドラッカー氏の著書を教科書にした勉強会や、中小企業間のつながりと開発の関連を研究するネットワーク組織論の第一人者で、スタンフォード大学教授だった今井賢一氏に教えを請うなど、中小企業経営の近代化を目指すメンバーが集まった組織である。

 メンバーは、特にドラッカー氏の著書「現代の経営」に大きな影響を受け、企業経営の基本が「マーケティング」と「イノベーション」にあり、中小企業経営にも「顧客の創造」が必要であると結論づけた。では、中小製造業にとって「顧客の創造」とは何か。それが、前回お伝えした「大企業の下請けからの脱却」だった。

インターネット普及期にいち早くメールを導入

 1990年代後半、インターネットが普及段階に入っていた。この時期、中小企業もインターネットを積極活用すべきだという声が上がり、機青連と、川崎市の若手中小企業経営者の会「ものづくり共和国」が導入を急いだ。

京都機械金属中小企業青年連絡会(機青連)のホームページ
京都機械金属中小企業青年連絡会(機青連)のホームページ

 そのころ産業関連の研究所に勤務していた筆者は偶然、両組織のメンバーを知り、その動きを報告書にまとめた。だが、当時の反応は「町工場でインターネットを使う理由がない」「インターネットは遠距離間の連絡に最適で、地域内で経営者が利用する理由がない」というものがほとんどだった。

 しかし、ネットワーク組織論などを学んだ機青連メンバーは、インターネットの将来性と中小企業経営に与える影響を見逃さず、まず、会員企業同士の連絡にメールを使い始めた。だが、高額なパソコンと通信サービスの導入をためらったり、反対したりする企業もあったという。

インターネット強制で事業化の機会を作る

 ネット導入反対の動きを一蹴したのは、96〜97年に代表幹事を務めた生田産機工業の生田泰宏社長(54)である。同社は1948年設立で、金属生産設備の設計・製作販売を手がけている。生田社長は電話やファクスでの連絡を廃止する荒業で、会員企業にインターネットを利用するよう半ば強制した。

生田産機工業の生田泰宏社長
生田産機工業の生田泰宏社長

 機青連のメンバーは、インターネットという新しい道具が、顧客の創造に役立つと考えていた。京都の中小企業支援組織などに相談し、事業化の機会をうかがうことになった。

 そして、事業化のもう一つのきっかけが機青連の規則に隠されていた。「45歳定年制」である。前々回で触れたように、機青連は45歳で引退する規則になっている。「壮年会員」と呼ばれる資格で残れるが、正会員として積極的な活動はできない。若手メンバーが中心だからこそ、スピードと勢いで事業を推進できた。

 「家族や互いの経営状況、客先まで知っている」という経営者同士のネットワーク、インターネットの可能性にいち早く気づいた先見性−−。21世紀が始まるころ、機青連は「京都試作ネット」設立への大きな動きを見せた。

 <「良い物をより高く売る経営」は原則、月2回お届けします。次回は11月上旬に掲載予定です>

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中村智彦

中村智彦

神戸国際大学教授

1964年、東京都生まれ。88年、上智大学文学部卒業。96年、名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程修了。外資系航空会社、シンクタンクで勤務。大阪府立産業開発研究所、日本福祉大学経済学部助教授を経て、現職。専門は中小企業論と地域経済論。中小企業間のネットワーク構築や地域経済振興のプロジェクトに数多く参画し、日テレ系「世界一受けたい授業」の工場見学担当も務める。

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