COP21の会場前では、地元産のリンゴを交渉関係者や記者に振る舞うサービスも行われた=坂井隆之撮影
COP21の会場前では、地元産のリンゴを交渉関係者や記者に振る舞うサービスも行われた=坂井隆之撮影

グローバル海外特派員リポート

パリ協定採択にこぎつけたCOP21議長国の面目

坂井隆之 / 毎日新聞・前欧州総局特派員(ロンドン)

 2020年からの地球温暖化対策を決める「国連気候変動枠組み条約締約国会議」(COP21)を昨年12月上旬の1週間、パリ郊外の特設会場で取材した。

 直前の11月13日、130人の犠牲者を出した同時多発テロが発生したため、パリ市内では自動小銃を構えて警戒する兵士の姿がいたるところで見られた。

テロ警戒のパリでもオープンな雰囲気の会場

 COP会場周辺は兵士や警察官約3000人で厳重に警備され、交渉関係者や記者は最寄りの駅からシャトルバスで会場敷地に入り、建物入り口で金属探知機による持ち物検査を受けた。ペットボトルや瓶入りの飲み物も中身がチェックされ、没収される来場者もいた。主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)など過去にいくつも国際会議を取材したが、飲み物まで没収するのを見たのは初めてで、テロを受けて警戒を強めていることを改めて実感した。

ノートルダム寺院の前で、小銃を構え警戒する仏軍兵士=坂井隆之撮影
ノートルダム寺院の前で、小銃を構え警戒する仏軍兵士=坂井隆之撮影

 ただ、いったん会場に入ると、COPには独特のオープンな雰囲気があると感じた。会場となった国際展示場は、各国代表団、メディア関係者、非政府組織(NGO)などにそれぞれ棟が割り当てられているものの、非公開の会議室を除いては各棟の行き来は基本的に自由で、プレスルームでは交渉担当者による記者会見もたびたび開かれた。

 交渉参加者と記者の区画が厳然と隔離され、終了までほとんど情報が公開されないG7とは大違いである。世界から集まった記者たちは、会議場や代表団の控室の前で「出待ち」をしたり、売店やカフェにいる交渉担当者を見つけて突撃取材したりと、あの手この手で情報収集に取り組んだ。

合意に向けてかつてなく前向きだった各国

 COPは190以上の国の利害が真っ向からぶつかる「真剣勝負」の場である。今回の会議でも、温室効果ガス削減を途上国にも約束させたい先進国側と、先進国から資金支援を引き出したい途上国との間で激しい綱引きが行われ、交渉は時に未明まで続いた。

 事前にシナリオが読めず、交渉当事者も自国に都合のいい部分しか説明しないことが多いため、記者としては先進国、新興国双方から話を聞いたり、オブザーバーとして参加しているNGOなどとも情報交換したりするなど、幅広い取材が必要だ。欧米の当局者やメディアはツイッターなどを使った発信にも積極的なため、こうした情報のチェックも交渉の流れを知る上で役立った。

 会議全体を通じて感じたのは、合意に向けたかつてない前向きな雰囲気だ。2013年からの温暖化対策の合意を目指した09年のCOP15は、先進国と途上国の対立で決裂した。今回の交渉担当者からは「ここで合意できなければ歴史に汚点を残す」という危機感が伝わってきた。

 これまで「途上国」として削減義務を負わなかった中国やブラジルなど新興国が、温室効果ガス排出量や経済力の増大を背景に一定の削減責任を負わざるを得なくなった状況変化も大きい。会場で話を聞いた中国の交渉担当者が「環境問題は我々にとっても大きな課題だ。会議を全面的にサポートしている」と強調したのが印象に残った。

メディアセンターでは深夜まで記者が残って会議の行方を見守った=坂井隆之撮影
メディアセンターでは深夜まで記者が残って会議の行方を見守った=坂井隆之撮影

ファビウス議長が「卵を扱うように采配」

 もう一つ特記すべきは、議長国フランスの采配のうまさである。議長を務めたフランスのファビウス外相は、大国と小国の隔てなく話を聞いて信頼関係を築き、草案にも各国の主張をバランスよく取り入れ、不満を生まないよう配慮した運営を行っていた。

 会議終盤に話を聞いた国連関係者は「議長は、まるで卵を扱うように慎重に会議を進めている。見事なものだ」と評した。直前のテロを受け、会議を成功に導くことで国家の威信を取り戻したい、という気迫も感じられた。

 12月12日、当初予定を2日オーバーし、「パリ協定」が採択された。ファビウス議長が木づちをたたくと、各国の代表団からは拍手と歓声が沸き起こった。その様子をメディアセンターのモニターで見守っていた記者団からも、同様に歓声が上がった。

 協定の中身にはもちろん不十分な点も数多い。それでも決裂することなく、地球的課題の解決へ国際社会が一歩前進したことに、ひとまずほっとした。会議を取材しての、私の率直な感想だ。

<「海外特派員リポート」は原則、土曜日に更新します>

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坂井隆之

坂井隆之

毎日新聞・前欧州総局特派員(ロンドン)

1973年、京都市生まれ。広島大学大学院修了。98年毎日新聞社入社。千葉支局を経て、2003年から経済部で証券、自動車、日銀、金融庁、財務省などを担当。12年10月から欧州総局経済担当特派員として、英国をはじめ欧州、中東、ロシア、アフリカの経済ニュースをカバーした。16年10月から再び経済部。

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