スキル・キャリア部下を伸ばす上司 ダメにする上司

小さな商談を気にかける上司に部下はついてくる

細川義洋 / ITコンサルタント

 人には、自分に関心を持つ他者の期待に応えようとする傾向があります。この傾向は、実験と調査が行われた米国の工場名にちなんで「ホーソン効果」と呼ばれています。ホーソン効果にはさまざまな反論や異論があり、仮説の域は出ていないのですが、上司として知っておいても損はしません。

 これが良い方向に働くと、自分に関心を寄せてくれる上司のもとでは、仕事へのやる気が高まり、作業効率や品質が上がることが期待できます。逆の方向に働くと、部下は上司に言われた以上の仕事をすることはなく、そう見せかけようとすることもあるそうです。

部下は苦しい状況でも「大丈夫です」と言ってしまう

 IT開発の現場で部下のこうした行動を感じるのが、「デバッグ」と呼ばれるプログラムの欠陥を修正する作業中です。プログラムは、どれほどの天才が作ってもどこかに必ずミスが隠れているものです。一つのプログラムに数十個のミスが混入していることも珍しくありません。納期が迫る中、先の見えない修正作業に頭を抱える技術者の姿を見るのは、開発会社の中では珍しいことではありません。

 上司は、状況を心配して様子を見に行くものですが、部下はかなりの割合で「大丈夫です」と答えます。上司の心の中にある「大丈夫だと言ってくれるよね」という期待を部下が感じるのでしょう。苦しい現状を隠して、「安心してください」と言ってしまうのです。筆者も部下の立場のころ、終わる見込みもないのに、「この資料は今晩中に完成させます」「プログラム修正は今日中に完了します」と、虚勢を張ることがよくありました。

 部下が宣言した通りに仕事を終えられなければ、上司にとっては困りものです。こうした部下の虚勢は、信頼する上司や、認められたいと思っている上司に対して強く出る傾向があります。上司側から見ると、信頼されている部下や積極的な部下ほど、その言動を注視する必要があるのかもしれません。

気持ちと裏腹な行動をとるのも上司の務め

 ただ、こうした人の傾向を知り、部下との関わり方を工夫すれば、部下の力を引き出すこともできるでしょう。部下たちをけん引したり、束ねたりすることができれば仕事の結果にもつながるはずです。

 注意すべきは、上司が自分の本当の興味や関心には沿わない、別の行動を取らざるを得ないケースがあることです。例えば、2人の部下がいて、一人は1億円の商談を進めていて、もう一人は100万円の商談に着手したとしましょう。

 上司の関心は、どうしても1億円の商談に向いてしまうはずですが、規模の大きな商談ほど、部下は上司にさまざまな相談を自主的にするでしょう。こうした状況で、上司が1億円の商談の話ばかりをしていると、100万円の商談をしている部下は金額的に引け目を感じ、やる気を失ってしまうかもしれません。上司が意識的に話題にすべきなのは、100万円の商談の方です。

 小さな仕事にこそ積極的に関心を示すことで、部下たちの結果を導いていくのが上司です。時には、自分自身の気持ちとは裏腹の行動をとらなければならないこともあるのです。

 <「部下を伸ばす上司 ダメにする上司」は毎週火曜日掲載です。次回は1月26日です>

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細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

1964年、神奈川県生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。NECソフト(現NECソリューションイノベータ)、日本IBMでシステム開発やコンサルティングを行う。著書に「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」「IT専門調停委員が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則」(日本実業出版社)などがある。

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