第3四半期決算について会見する東芝の室町正志社長(右)=2016年2月4日、亀井和真撮影
第3四半期決算について会見する東芝の室町正志社長(右)=2016年2月4日、亀井和真撮影

政治・経済東芝問題リポート

名門東芝「事業切り売り待ったなし」の事情

編集部

東芝赤字拡大・7100億円(2)

 東芝は2月4日に発表した第3四半期決算で、7100億円という、東芝140年の歴史始まって以来最大の最終(当期)赤字となる年度の業績予想を公表した。翌5日、東芝の株価は急落し、前日終値より22円20銭安い176円30銭で取引を終えた。

 不正会計が発覚していなかった1年前の2015年2月5日の終値は476円30銭。不正会計で揺れた1年間でちょうど300円下落した。東芝を1000株を保有し続けた株主は、47万6300円が17万6300円に目減りしたことになる。

 このような株価がもし6月まで続けば、定時株主総会で株主はどんな怒りをぶつけてくるだろうか。

「ステップ1で減損の兆候なし」

 東芝は第3四半期決算で、米原子力子会社、ウェスチングハウスにかかわる問題に手をつけなかった。

 決算記者会見で、最初に質問の指名を受けたテレビ局の記者が、室町正志社長に対し、「ウェスチングハウスの減損はクリアしたのか。本決算で減損処理することを考えているのか」と聞いた。

 室町社長は「年1回の『ステップ1』で減損の兆候なしという結果になった。さまざまな市場環境の状況に応じて、減損テストは適宜適切に行っていく。第4四半期になっても、環境変化があれば減損テストをもう一度行う可能性は十分にあると思う」と答えた。

東芝が2月4日にリリースした原子力事業に関する資料
東芝が2月4日にリリースした原子力事業に関する資料

 企業会計で使われる用語が出てくるので難しいが、「ステップ1」というのは、事業の現時点の価格「時価」と、帳簿に計上しているその事業の資産価格「簿価」を比べることだ。

 東芝は第3四半期にウェスチングハウスを含む原子力事業について、この「ステップ1」の検討をした結果、「減損の兆候なし」、すなわち時価が簿価を上回っていると判断したという説明だった。

 もし「ステップ1」で時価が簿価を下回ったら、「ステップ2」に進む。これは、買収時に計上した「のれん」の価値を再度評価することだ。

「環境変化があれば第4四半期にもう一度減損テストを行う」

 「のれん」の意味も含め、この室町社長の説明の背景を改めて解説する。

 東芝は06年、ウェスチングハウスを約5400億円で買収した。他社と競い、当初取りざたされていた価格の2倍以上の巨額の買収になった。東芝は、ウェスチングハウスの正味の価格を約2000億円と算定し、買収額との差額約3400億円を資産として計上してきた。これがウェスチングハウスの「のれん」問題である。

 11年の福島原発事故で原発事業が一気に冷え込んだため、米ウェスチングハウスは、米会計事務所と相談し、「のれん」の価値を約13億ドル(約1600億円)分引き下げ、決算で損失として処理した。これを「減損」という。

 子会社が減損すれば、親会社の東芝の連結決算でも反映させるのが普通だ。ところが、東芝の当時の経営陣は、連結決算で減損しなかった。「原子力事業全体としては堅調」という、常識では通用しない詭弁(きべん)を用いた。そして、その子会社の巨額の減損を2年半にわたって隠蔽(いんぺい)し続けてきたのである。

「ステップ2移行に備えて、できる限りのことはやりたい」

 東芝はこれまで、ウェスチングハウスの「のれん」について、「減損の必要なし」と繰り返してきた。しかし、今回の決算会見で、室町社長は「減損の兆候なし」と言った。「必要なし」と「兆候なし」では意味がずいぶん違ってくる。そして、次のような説明を続けたのである。

東芝本社のビル。右はオブジェの鏡面=2015年9月、後藤由耶撮影
東芝本社のビル。右はオブジェの鏡面=2015年9月、後藤由耶撮影

 「ステップ1が万が一クリアできなかったことも想定して、買収費と現在の資産の価値について、評価作業を並行して進めている。ステップ2に移行した場合に備えて、考えられる施策を今から備えないといけない。ウェスチングハウスのそういう事態に備えて、できる限りのことはやりたい」

 この発言を素直に受け取れば、「ウェスチングハウスの減損を今年度中に行う方向で準備している」ということではないか。ただ、東芝の自己資本はたった1500億円という危機的な水準だ。減損で自己資本がなくなれば、会社の存続は危うい。

 このため、室町社長は、次の説明も付け加えた。

 「資本増強に大きく役立つ資産売却は、ヘルスケアが唯一の資産なので、その売却をスピーディーに行い、企業価値を高く評価している会社と早く契約を進めたい」

 東芝は昨年12月、リストラ策を発表した。そのなかに、医療機器子会社の東芝メディカルシステムズの売却という項目があった。ウェスチングハウスの減損に備えて、資産売却は待ったなしなのだ。

 東芝は今年度中にウェスチングハウスの減損を行うーー。その読みを裏付けるような質疑が続いて行われた。金融機関の支援体制に関するものである。これについては次回、詳しく触れる。

 <東芝赤字拡大・7100億円(3)は2月10日に掲載します>

編集部から:「東芝 不正会計 底なしの闇」を出版

 経済プレミアで昨年6月から随時掲載してきた「東芝問題リポート」を大幅に加筆、編集した「東芝 不正会計 底なしの闇」(毎日新聞出版、消費税込み1080円)が出版されました。著者は、東芝不正会計の表と裏を報告してきた今沢真・経済プレミア編集長です。全国の書店や通販サイトで購入できます。どうぞご一読ください。

 アマゾンのページはこちら。

2月22日 今沢編集長が毎日メディアカフェで講演

 書籍「東芝 不正会計 底なしの闇」の著者、今沢編集長の緊急記者報告会を開催します。2月22日(月)午後6時開場、6時半開演、会場は毎日新聞東京本社・パレスサイドビルB1「毎日ホール」(東京都千代田区一ツ橋1の1の1)です。

 入場は無料。定員は150人で、事前申し込みが必要です。事前申し込みの受け付けは先着順です。詳しくは毎日メディアカフェのホームページで。(応募受付は終了しました)

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長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
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