涙ぐみながら最後の合唱を披露する卒業生=北九州市の沼中学校で2014年3月13日、徳野仁子撮影
涙ぐみながら最後の合唱を披露する卒業生=北九州市の沼中学校で2014年3月13日、徳野仁子撮影

社会・カルチャー切ない歌を探して

「蛍の光」が歌い上げる出会いと別れの切なさ

森村潘 / ジャーナリスト

 「卒業」の季節がやってきた。さわやかで華々しい「入学」に比べ、卒業は喜びや安堵(あんど)と同時に、一抹の寂しさがある。

 いま日本中の学校で、卒業式に備えて合唱の練習が行われているはずだが、「仰げば尊し」や「蛍の光」が、卒業ソングの定番だったのははるか昔のこと。いまは新しい合唱曲やポップスから歌が選ばれている。

埼玉県秩父市に建立された
埼玉県秩父市に建立された"旅立ちの日に"の記念碑前で握手する作詞の小嶋登さん(左)と作曲の高橋浩美さん=2006年2月

 「白い光のなかに〜」の歌詞で始まる「旅立ちの日に」(作詞・小嶋登、作曲・高橋浩美)は、埼玉県の中学校で生まれた名曲だ。

 おなじ「旅立ちの日に…」という曲で、シンガー・ソングライター、川嶋あいの作品も人気がある。ともに学校生活を振り返り、新しい世界への希望を歌っている。合唱曲では「この地球のどこかで」(作詞・三浦恵子、作曲・若松歓)が、友との思い出をかみしめる切なさとすがすがしさがある。

チャリティーライブで弾き語りをするシンガー・ソングライターの川嶋あいさん=東京都内で2011年12月15日午、須藤唯哉撮影
チャリティーライブで弾き語りをするシンガー・ソングライターの川嶋あいさん=東京都内で2011年12月15日午、須藤唯哉撮影

スコットランドの詩人バーンズの歌詞にもしみじみ

 このほかにもいろいろあるが、改めて「蛍の光」を聴いてみると、これはこれで心深くに響くものがある。「♪蛍の光 窓の雪……」と、七五調の歌詞が淡々と流れ、「あけてぞ今朝は 別れ行く」という言葉に、しんみりとしてしまう。学校生活を思わせる細かな描写はないが、わかりやすく情緒的なメロディーと、シンプルな歌詞が自然に入ってくる。

 日本の「蛍の光」は明治時代、教育者で歌人でもあった稲垣千頴(いながき・ちかい)が、原詞とはまったく違う歌詞を作って唱歌に取りあげられた。原曲は世界的にも知られる「Auld Lang Syne (オールド・ラング・サイン)」。これがまた実に味わい深いオールドソングだ。スコットランドの大詩人、ロバート・バーンズが1788年、29歳の時に作った詩に、メロディーがつけられた。

スコットランドの詩人、ロバート・バーンズ
スコットランドの詩人、ロバート・バーンズ

 Auld Lang Syne はスコットランド語で、英語に直訳すれば「Old Long Since」であり、「遠い昔」「その昔」といった意味だ。

 哀愁漂うメロディーを支える歌詞は、旧友と出会い、思い出を語り合いながら酒を酌み交わす、という内容。時の流れへの切ない思いがあらわれている。

 友との古き昔の日々に思いをはせ、過ぎ去った時が隔てた友との距離を惜しむ。そしてだからこそ友との再会を喜び、「古き昔のために、親愛(友情)の一杯を飲み干そう」と歌いあげるのだ。

多くの有名アーティストがカバー

 この歌は、英語圏ではよく知られていて、クラシックで演奏されたり、合唱曲として歌われたりしている。また、多くの有名アーティストもカバーしている。

 近年、アメリカのスタンダードを歌っているロッド・スチュワートや、オーディション番組からシンデレラ的にスターにのぼりつめたスーザン・ボイル(スコットランド出身)も、アルバムのなかで取りあげている。

 若くして世を去ったロック・ギタリスト、ジミ・ヘンドリックスは、かつてひずんだエレキサウンドで「蛍の光」のメロディーを奏でた。

 こうしたカバーのひとつに、1970年代から歌い続けるシンガー・ソングライター、ジェームス・テイラー(JT)の2006年クリスマス・アルバム「JAMES TAYLOR at Christmas」がある。彼が歌う「オールド・ラング・サイン」は、ジャジーな雰囲気が漂うしゃれたアレンジで聴かせる。

卒業式後、在校生から見送られる卒業生たち=宮城県南三陸町の町立志津川中学校で2012年3月10日、丸山博撮影
卒業式後、在校生から見送られる卒業生たち=宮城県南三陸町の町立志津川中学校で2012年3月10日、丸山博撮影

 JTの声は奥行きがあり、やさしい。友と過ごした昔と厚き友情を朗々と歌い上げる。ロバート・バーンズは若くしてこの詩を書いたが、友情や愛情の酸いも甘いも知る年になって聴けば、いまやもう別れた友のことなど思い出し、時の流れをかみしめるばかり。日本の「蛍の光」とは別の、遠くを振り返る人生の卒業歌のようだ。

 <「切ない歌を探して」は隔週水曜日に更新します>

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森村潘

森村潘

ジャーナリスト

大手新聞、雑誌編集などを経てコミュニティー紙の編集などに携わる。ジャンルを超えて音楽を研究、アメリカ文化にも詳しい。

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