IT・テクノロジーハードウエア新時代

今秋発売「プレステ VR」が目指す新しいゲーム体験

西田宗千佳 / フリージャーナリスト

 3月15日(現地時間)、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は米サンフランシスコで発表会を開催、かねて開発を表明していたバーチャルリアリティー(VR)機器、「PlayStation VR(プレステVR)」を、日米欧で10月に発売すると発表した。

SCEが10月に発売する「PlayStation VR」(4万4980円)。PS4とセットで利用する周辺機器だが、リーズナブルな価格で良質なVR体験を得られる
SCEが10月に発売する「PlayStation VR」(4万4980円)。PS4とセットで利用する周辺機器だが、リーズナブルな価格で良質なVR体験を得られる

 価格は4万4980円(税別)。プレステVRは家庭用ゲーム機「PlayStation4」とセットで使う周辺機器で、頭にかぶることで視界を映像で置き換え、従来にない圧倒的な臨場感・没入感のある体験を実現する。SCEのアンドリュー・ハウス社長も「これまでのゲームとは全く異なる体験。新しいムーブメントを起こしたい」と自信を見せる。

試行錯誤で開発が進むバーチャルリアリティー機器

 SCEがこの日にプレステVRを発表したのは、サンフランシスコでゲーム開発者会議「Game Developers Conference(GDC)」が開催中だったからだ。GDCは世界最大のゲーム関連開発者会議で、今回で開催30回目となる、非常に重要な場だ。あくまで開発者のためのイベントであり、本来、個人市場向けのニュースである製品発表などは少ない。だが、そこにあえて、同社が「新しいゲーム機に準ずる戦略商品」の発表を仕掛けてきたのは、GDCの主要なテーマが「VR」であったからだ。

 GDCの会期は5日間。最初の2日間は「VRDC」と名付けられ、VR関連のセッションが集中的に行われた。主催者によれば、全セッションのうち約3割がVRに関連するものである。VRがまだ産業として立ち上がっていないことを思えば、非常に大きいものだ。企業展示を行うExpoフロアにも、VR関連展示が相次いだ。

SOMNIACSが開発中のVRアクティビティー「Birdly」。みずから「羽ばたいて空を飛ぶ」体験ができる。前方にあるファンから風も体感
SOMNIACSが開発中のVRアクティビティー「Birdly」。みずから「羽ばたいて空を飛ぶ」体験ができる。前方にあるファンから風も体感

 VRへの注目は、プレステVRだけが担っているわけではない。Facebook傘下のOculusやゲーム配信大手のValveなど、パソコンとの接続を前提にしたVR機器を手がける企業が先行しており、2年ほど前から活発なソフト開発・周辺機器開発が行われている。

 過去には、家庭用ゲーム機とパソコンの世界には壁があったものの、今やそれはない。開発環境もほぼ同じであり、「家庭向けで手軽」か「熱心なファン向けのこだわり」かの違いだ。特にパソコンは、開発機材=プレーする機材でもあり、試行錯誤に向いている。

 また、家庭用でなくアミューズメントパークなどに向けた開発では、数万〜数十万円のコストの違いよりも、開発の自由度の方が重要であり、パソコン系のソリューションを利用する例が多い。例えば、ジェットコースターをVRと小さな移動式の椅子で再現するようなアトラクションは、VRの産業活用の好例と言える。

GDCで紹介されたモーションシミュレーター。VR機器を頭にかぶり、視界を覆いつつ動く椅子に座ることで、ジェットコースターなどの大掛かりな設備をコンパクトに実現する
GDCで紹介されたモーションシミュレーター。VR機器を頭にかぶり、視界を覆いつつ動く椅子に座ることで、ジェットコースターなどの大掛かりな設備をコンパクトに実現する

映像と加速度が異なると発生する「VR酔い」対策も

 VRにはゲームのテクノロジーが使われているが、これまでのゲームとは制作ノウハウが大きく異なる。新しい配慮が必要だ。

 例えば、見えている映像と実際に自分が感じる加速度が異なると「VR酔い」につながる。自分はソファに座っているのに、急激な速度で回転したりする映像は使えない。映像のコマ落ちもご法度。現実世界にはコマ落ちなど存在しないため、コマ落ちがVR酔いを誘発する。

 音も通常のステレオやサラウンドではダメで、自分がいる位置に合わせて音が聞こえる方向が変わる「3Dサウンド」の方が望ましい。またコントローラーも、古典的なゲームパッドではなく、手の動きをデータ化できるようなものが中心になる。

 まったく新しいノウハウが必要になるので、開発者は試行錯誤を繰り返している。そこでは、知見の共有によって無駄を省くことが重要になっている。だから、機材さえ準備すればすぐに開発にかかれて、開発者登録のハードルも低いパソコン系が歓迎されるし、Oculus向けに作っている人々と、プレステVR向けに作っている人々での交流も盛んだ。

 OculusやプレステVRが市場に出ることは、VRにとって大きなチャンスである。筆者も体験しているが、他に代え難い、衝撃的で新鮮なものだ。とはいえ、現状のハードウエアは高価でハードルも高く、ヒットが約束されているとは言い難い。開発者は口をそろえて「良い体験を作り上げることが重要だ」という。酔いを伴うような悪い体験には、人はお金を払ってくれないからだ。「新鮮かつ快適なVR」を作るために、開発者も関連企業も、一致団結して進んでいる。

 <「ハードウエア新時代」は隔週水曜日に更新します>

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西田宗千佳

西田宗千佳

フリージャーナリスト

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿するほか、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。

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