スキル・キャリア思いを伝える技術

地図に頼らず言葉で道順を伝えるのは結構難しい

川井龍介 / ジャーナリスト

 出張で京都のホテルに泊まったとき、フロントの女性に「この近くにおそば屋さんはありませんか」と尋ねました。すると「ちょっとお待ちください」と言って彼女はその場を離れ、5、6分して戻って来るとパソコンから印刷した地図をくれました。

 そば屋がどこにあるのかわかりました。が、その場所はホテルのそばで、「ホテルの前の道を渡って右に行き、最初の角を左に曲がるとすぐのところ」でした。口頭で説明してくれてもわかる場所です。

 ある場所がどこにあるのか、またそこまでの道順を知りたいとき、いまはスマホなどを使って簡単に調べることができます。その分、人に直接尋ねたり、尋ねられたときに言葉で説明したりする必要が少なくなりました。

 それでも、すべてがインターネット上から探せることはありませんし、効率が悪いことがあります。できればまず言葉だけで説明できることが重要です。

 しかし、これが意外と難しいのです。言葉で説明する機会が少なくなっている今、苦手な人も多いようです。

駅から自宅までの道順を説明してみる

 例えば、自分の会社や自宅に訪ねてくる人への、最寄りの駅からの道順の説明です。まったく土地勘がなく周囲の状況も一切わからない人に、電話で説明するとします。駅から自宅までのこんな説明はどうでしょうか。

 「○○駅の改札を出てまっすぐ進み、階段を下りてしばらくすると大きな通りに出ます。そこを右に曲がって、二つ目の交差点を左折して、しばらくするとクリーニング屋があります。その向かいのマンションの605号室です」

 わかりにくい部分はありませんし、言葉の意味はわかります。しかし、決して十分とは言えません。まず、訪れる側は改札口が一つかどうかがわかりません。改札口が複数あれば、迷ってしまうかもしれません。

 次に「しばらくすると」というのが2カ所あります。「しばらく」はどのくらいなのか、人によって受け取り方に差があります。「しばらくと言われたけれど、まだかな」と相手は不安になり、見過ごしたかと思って戻ってしまうこともあるでしょう。およその距離か時間を示すことが親切です。

相手の立場になって具体的に説明する

 「大きな通り」というのもあいまいです。何本目の通りとか、国道○○号などという方が確かです。「交差点を左折」も、車への指示ならいいですが、この場合交差点に差しかかったときに、通りを渡って左に行くのか、渡らずに左に行くのかかがはっきりしません。結果として同じ道に入るとしても、通りの右を歩くか左を歩くかで変わってきます。

 「クリーニング屋があります」も、右手に見えるのか左手に見えるのかがわかりません。これも相手に対しては的確でなく、親切とは言えません。簡単な道順でもこれだけ迷う要素があります。

 自分が何も知らない場所に向かう時のことを想像して、相手の立場になって、目に映るであろうものを一つひとつ具体的に示しながら説明していくことです。

 しかし、ここで一つ問題があります。複雑な説明にならざるを得ない時、一つひとつの細かい説明の連続は、かえって理解を妨げることがあります。これは道順に限ったことではありません。どう工夫したらいいでしょうか。次回はこの点を考えてみます。

 <「思いを伝える技術」は、隔週水曜日に更新します>

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川井龍介

川井龍介

ジャーナリスト

1980年慶応大学法学部卒。新聞記者などを経てフリーのジャーナリスト、ノンフィクションライター。実用的な文章技術を説いた「伝えるための教科書」(岩波ジュニア新書)をはじめ「大和コロニー~フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)、「フリーランスで生きるということ」(ちくまプリマ―新書)を2015年に出版。このほか「ノーノー・ボーイ」(ジョン・オカダ著、旬報社)の翻訳をてがける。

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