日産のカルロス・ゴーン社長=2016年5月12日、徳野仁子撮影
日産のカルロス・ゴーン社長=2016年5月12日、徳野仁子撮影

政治・経済消費者に刺さるモノづくり

「サトウキビ燃料」で走る日産の新電気自動車とは?

永井隆 / ジャーナリスト

 日産自動車は、液体のバイオエタノールから発電した電気で走行する新しい燃料電池車向けシステム「e-Bio Fuel-Cell」の技術を公表した。走行中はもとより、燃料の生成過程でも二酸化炭素(CO2)が発生せず、従来の燃料電池車に必要だった水素ステーションもいらないのが特徴だ。

 走行距離はガソリン車並みで、車両価格も従来の燃料電池車より大幅に安くなるという。日産の坂本秀行副社長は、「商品化は2020年をメドとするが、日産としては、水素を燃料とする燃料電池車より、こちらの商品化が先になるだろう」と説明する。

 スポーツタイプ多目的車(SUV)やピックアップトラック、商用バンなど、重量があって稼働率が高い車両への応用が見込まれ、今夏にも、バンの試作車を公開する計画だという。

高温で作動する発電装置を搭載

 このシステムは、「固体酸化物形燃料電池(SOFC)」と呼ばれる発電装置を搭載する。この発電装置を搭載した電気自動車(EV)と言うことができる。仕組みは次のとおりだ。

 (1)燃料タンクのバイオエタノール(100%エタノール、またはエタノール45%の混合水)が車載の改質器に送られ、熱により水素と二酸化炭素に分離される。

 (2)分離された水素が「固体酸化物形燃料電池」で空気中の酸素と反応して発電する。

 (3)発電した電気は車載のリチウムイオン電池に供給され、モーターを駆動する。

日産の新システムの仕組み図
日産の新システムの仕組み図

 固体酸化物形燃料電池を自動車の動力源として採用するのは世界で初めて。エタノール以外にも天然ガスなど酸素と反応する多様な燃料で利用できるという。

 従来の燃料電池車の発電装置は、白金などの貴金属が触媒となるが、この「固体酸化物形燃料電池」は、700〜800度の高温で作動し、高価な貴金属を必要としないという。高温の中での耐久性が課題だが、コストは安くなる。

 また、従来の燃料電池車の燃料は気体の水素であり、超低温の液体水素にしたり、高圧をかけたりして貯蔵・車載するが、バイオエタノールは液体で、取り扱いがしやすく、簡易なタンクですむ。発電効率は高く、走行距離600キロ以上と、ガソリン車と同等の性能が実現できるという。

サトウキビ燃料は「カーボンニュートラル」

 排ガスを一切出さない「ZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)」は、電気自動車と、水素を燃料とするトヨタの「MIRAI(ミライ)」などの燃料電池車(FCV)が開発されてきた。

 これらは走行中には排ガスを出さないが、燃料となる電気や水素の生成には、化石燃料が使用されている。

 電気自動車は、火力発電で石炭を使用しCO2排出が増える。燃料電池車に使う水素は、99.97%以上の高純度が必要なため、天然ガスなど化石燃料から改質した水素が使われてきた。

 バイオエタノールはサトウキビやコーンを原料とする。サトウキビの場合は、圧縮汁と搾りかすに微生物を加えてアルコール発酵させ、蒸留することで生成される。

 走行中にバイオエタノールから水素に改質する際にCO2が発生するが、サトウキビが生育する間に吸収するCO2で相殺される。いわゆる“カーボンニュートラル”なのだ。

新システムを発表する日産の坂本秀行副社長。右は土井三浩・総合研究所長=2016年6月14日、永井隆撮影
新システムを発表する日産の坂本秀行副社長。右は土井三浩・総合研究所長=2016年6月14日、永井隆撮影

ブラジルや米国ではスタンドでエタノールを販売

 サトウキビの最大産地であるブラジルでは、ガソリンスタンドでガソリンと軽油のほかに、エタノールが販売され、ガソリンと混合して走るフレックス車が走行している。米国でもエタノールを補給できるスタンドは多数ある。

 「ブラジルやアメリカなら、既にインフラはできているので実用化は楽。日本でもサトウキビの生産地である沖縄は有望です」と開発にあたる日産の土井三浩・総合研究所長は期待を込める。

 バイオエタノールの原料は、砂糖やラム酒など食物の原料でもある。食物との折り合いをどうつけるのかといった課題がある。酵母や微生物の豊富な発酵技術をもつ日本のビールメーカーと組み、エタノールの生成技術を向上させることも考えられる。化石燃料に依存しない社会への扉を、日本の自動車産業は開けるのだろうか。

 <「消費者に刺さるモノづくり」は随時掲載します>

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永井隆

永井隆

ジャーナリスト

1958年群馬県桐生市生まれ。明治大学卒。東京タイムズ記者を経て、92年にフリージャーナリストとして独立。「サントリー対キリン」(日本経済新聞出版社)など著書多数。

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