政治・経済自動車不正リポート

「自動車開発の資格なし?」三菱が犯した四つの不正

編集部

三菱自動車・燃費不正の全容(1)

 三菱自動車は6月17日の記者会見で、燃費データ不正問題の全容を解明したと発表した。4月20日に軽自動車4車種で不正が発覚したと発表してから2カ月。軽自動車だけでなく、2006年以降に販売した全ての車、29車種に不正は拡大した。

 不正に関する三菱自動車の記者会見は5回行われ、そのたびに新たな不正が発覚した。企業の危機管理として最悪の展開だった。なぜ全容解明にこれだけの時間がかかったのか。この間の動きを詳細に報告する。

法定の方法とは別の方法で測定

 まず、どのような不正が行われていたのか整理してみよう。三菱自動車は、不正行為の内容を四つに分類した。

 まず第一の不正。これは、走行抵抗値の測定方法を、道路運送車両法で定められた「惰行法」ではなく、米国などで使われている「高速惰行法」という方法で行っていたという不正だ。

 国は91年に、走行抵抗値を惰行法で測定するよう定めた。ところが、三菱自動車ではこれ以降も高速惰行法を使っていた。惰行法は走っている車のギアをニュートラルにし、時速が10キロ落ちるのにかかる「惰行時間」を測る。高速惰行法は、車の時速が1秒ごとにどれだけ落ちるかを測る方法だ。

 なぜ、三菱自動車がこの高速惰行法の測定を続けたのか、現時点では明確になっていない。

走行試験のため計測装置を設置した三菱自動車の「eKワゴン」=埼玉県熊谷市で2016年5月2日、宮武祐希撮影
走行試験のため計測装置を設置した三菱自動車の「eKワゴン」=埼玉県熊谷市で2016年5月2日、宮武祐希撮影

9車種でデータを偽装

 第二の不正が、燃費性能を算出する基になる「走行抵抗値」を意図的に改ざんしていたという悪質なものだ。走行抵抗値とは、タイヤの路面での摩擦抵抗や、車体の空気抵抗などを数値化したものだ。

 車を販売する際、カタログに燃費性能が「燃料1リットル当たり○キロ」などと記載される。その燃費性能は、審査機関が、車を屋内の測定器のローラーの上に乗せ、タイヤを回転させて調べる。その際に、メーカーが届け出る走行抵抗値を入力し、抵抗値が大きいほどローラーを動かしにくく調整する。その走行抵抗値はメーカーの言い値が採用されてきた。

 自動車メーカーは、走行実験を複数回行い、計測した走行抵抗値の中央値を国に届け出ることになっている。ところが、三菱自動車は中央値ではなく、燃費性能をよく見せる値を取って、国に提出していた。

三菱自動車のパジェロ=同社提供
三菱自動車のパジェロ=同社提供

 eKワゴンなど軽自動車4車種、それにパジェロ、RVR、ギャランフォルティス、コルト、アウトランダー(旧型)といった三菱自動車を代表する車で、こうした偽装が行われていた。偽装は9車種にのぼる。

 改ざんにより、例えば軽自動車の場合、燃費性能が見かけ上5〜15%よくなっていたという。

 タイヤの摩擦抵抗と車体の空気抵抗について、別々の車で取ったデータを、恣意(しい)的に組み合わせて改ざんしたという、より悪質な偽装も発覚した。

違法に机上計算したデータを基に、さらに机上計算

 第三の不正は、走行抵抗値を、走行試験で計測せず、過去の試験結果などをもとに机上計算していたというものである。これは20車種で行われていた。

 例えば、いま販売されているRVRは、10年に開発された「11型」と呼ばれるRVRの走行抵抗値のデータを基に机上計算されていた。そしてそのRVRの11型は、ギャランフォルティスの走行抵抗値を基に机上計算していた、というのだ。

 走行抵抗の試験結果にばらつきがあり、三菱自動車の開発の現場では、机上計算の方がより技術的に妥当であり、これを使用しても問題ないと思い込んで、半ば習慣的に机上計算を行っていた。

試験日、天候、温度も事実と異なる記載

 さらに、四つ目の不正として、法令で定められた成績書(負荷設定記録)を作成する際に、試験日、天候、気圧、温度、惰行時間などを、事実と異なる記載をしていた。この不正は、06年から現在までに販売された全29車種で行われていたというのだ。

 こうした四つの不正を見ると、三菱自動車の開発担当者は、法規を守る意識がなかったように思える。6月17日の記者会見でも、記者から「三菱自動車は、車を開発する資格がないのでは?」という根源的な疑問が投げつけられた。当然の問いかけである。

 三菱自動車の益子修会長は、「大変申し訳ない。お客様、販売店、その他の皆さんに本当にご迷惑をかけた。法規を守るという意識が希薄だった。こうしたことが二度とないよう、根絶していかなければならない」と、声を絞り出すように答えたのである。(つづく)

 <(2)「燃費に疑問」指摘から5カ月を浪費した三菱自動車

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長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
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