提携するマクドナルドの店舗前でポケモンGOをする人のスマホ画面=福岡市中央区で2016年7月22日、和田大典撮影
提携するマクドナルドの店舗前でポケモンGOをする人のスマホ画面=福岡市中央区で2016年7月22日、和田大典撮影

政治・経済経済プレミア・トピックス

ポケモンGOで見るべきは「地図アプリとGPS活用」だ

中村智彦 / 神戸国際大学教授

ポケモンGOを読み解く(2)

 部屋にこもる人々を外に連れ出すことに成功し、社会現象を起こしている「ポケモンGO」には、ビジネスのやり方が変わる予兆を見ることができる。情報が人の流れを変えられるようになるからだ。ただ、流れが変わるのは人だけでなく、物についても同様だ。今回は、その変化でどういった影響が出るかを考える。

 ポケモンGOでは、プレーしているスマホの画面上に地図が表示され、その地図上にさまざまな情報が表示される。こうした情報について学生たちと話していたところ、ある学生が言った。

 「アルバイト先のコンビニでは、商品の購入・在庫情報がPOSデータとしてレジに入っています。これらの商品情報が地図上に反映されれば、買いたい商品が『今、どこで手に入るか』がわかるようになりますね」

ポケモンGOを楽しむ大学生=東京都中野区で2016年7月22日、竹内紀臣撮影
ポケモンGOを楽しむ大学生=東京都中野区で2016年7月22日、竹内紀臣撮影

人工知能や自動運転技術が向上する

 学生の言う機能が実現すれば、従来は流通業者や事業者だけが知り得た情報を消費者も容易に入手できるようになる。実際、各企業や店舗の営業状況、バスなど公共交通機関の運行やタクシーの空車、駐車場の空き情報などが地図上に集約されつつある。こうした変化は、人だけではなく物の流れをも変えうる。

 どこに人が流れ、何が求められているかといった情報が活用できるようになれば、広告や宣伝手法、生産から販売までの流通にも大きな変革が起こるだろう。

 それだけの大量情報の分析や整理、その結果を受けた情報発信となると、必要とされるのは人工知能(AI)だ。地図アプリや位置情報システムの活用の一つの目標は、自動車の自動運転技術にもつながる。つまり、ポケモンGOは、近い将来に起こりうる変革を考えるきっかけと捉えるべきだ。

「地元」がどう見られているかがわかる

ゲームアプリ「イングレス」のオブジェ=国立新美術館で2015年2月5日、大迫麻記子撮影
ゲームアプリ「イングレス」のオブジェ=国立新美術館で2015年2月5日、大迫麻記子撮影

 筆者の周囲にいる学生たちにも、興味深い変化が見られる。ポケモンGOには、イングレスの利用者が登録した各地の地図情報が活用されている。情報は、地理や歴史、サブカルチャーに関心のある利用者が書き込むことも多いようで、地元の人間でも気づかないような史跡や歴史的建造物なども登録されている。

 それらを見た学生たちは、「よく通る道の近くに石碑があったんです」「あの公園の名前が初めてわかりました」といった会話を、教員や親たちと交わすよになった。反応は好意的で、それらの分野に興味を示すきっかけにもなっているようだ。

 こうした状況は、中高年層から見れば意外なことかもしれないが、地元の資源が第三者にどのように見られているのかを知るためのツールと割り切って、ポケモンGOを使ってみる手もある。地元のどこのスポットが登録されていて、どのように紹介されているのかを知っておくことは重要だ。

 「若者が集まってうるさい」「通りを人がぞろぞろ歩いて危険だ」とぼやいているだけではいけない。それだけの人が出てきて集まっていることを、自社のビジネスにいかに活用するかを考えるべきだろう。

ブームのベースにある変化の本質

 大学生たちにポケモンGOに関する簡単なアンケートを取ってみた。80人ほどの学生の約7割は、ポケモンGOブームは学生たちの夏季休暇中に一段落すると答えた。大人たちの騒ぎ方に比較して、彼らが冷静に見ていることがわかる。アニメやゲームのブームが短期間で消沈しやすいと認識しているのだ。

 「ポケモンGOを活用して地域活性化を、観光振興を」などと勧めるコンサルタントや、それに乗じる自治体や企業も数多く出てくるだろう。全くムダなこととは言わないが、「ゆるキャラ」「B級グルメ」などのように、ブームを超えて定着させるのはそう簡単なことではない。

 必要なのは、ポケモンGOというゲームの華々しい部分に気を取られずに、そのベースで起こっている地図アプリや位置情報システムの変化の本質に気づくことである。もし、経営者が「子供のおもちゃに何を騒いでいるのか」程度の認識でいるのなら、今後その企業には致命的な影響を及ぼす可能性がある。

 地図アプリや位置情報システムと、ゲームから収集できる情報を統合することで、「新たな社会インフラ」が構築される。今後、このインフラをベースにした自動運転技術や、IoT(モノのインターネット)を軸に製造から物流、流通、販売までの新たな連携構築など、私たちの生活スタイルそのものの変化が視野に入ってくる。

 そうしたことを考えていて、ある経営者の話を思い出した。

 「ファクスが世に出た時、そんな機械はいらないと導入しなかった会社は消えていった。インターネットは子供のおもちゃだ、ホームページなどいらないなどと言っていた会社も消えていった。新しいものやブームは、数年先にどうなるかを見据えて話した方が良い」

 ポケモンGOは、まさにそうした捉え方が必要だ。

<「ポケモンGOを読み解く」は今回で終わります。中村智彦さんの連載はこちら

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中村智彦

中村智彦

神戸国際大学教授

1964年、東京都生まれ。88年、上智大学文学部卒業。96年、名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程修了。外資系航空会社、シンクタンクで勤務。大阪府立産業開発研究所、日本福祉大学経済学部助教授を経て、現職。専門は中小企業論と地域経済論。中小企業間のネットワーク構築や地域経済振興のプロジェクトに数多く参画し、日テレ系「世界一受けたい授業」の工場見学担当も務める。

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