MVNO向けのSIMフリースマホは割引がなく、本体価格で販売されるのが一般的
MVNO向けのSIMフリースマホは割引がなく、本体価格で販売されるのが一般的

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公取委の携帯販売報告書でiPhone価格はどうなる?

石野純也 / ケータイジャーナリスト

 公正取引委員会は8月2日、「携帯電話市場における競争政策上の課題」と題する報告書を発表した。携帯電話事業者各社に直接的な勧告や指導があったわけではないが、「(独占禁止法に)違反する事実が認められたときには厳正に対処する」とも述べられており、予断を許さない状況だ。

 報告書の中で問題視されており、今後に与える影響が大きそうなのが、料金プランと一体になった端末の販売方法。いわゆる、「実質価格」と呼ばれているものだ。

 では、なぜ実質価格の設定が問題になるのか。まずは、その前提となる、携帯電話の価格の実態を見ていこう。

「端末の実質価格」は不正ではないが…

 携帯電話の価格には、本体価格と実質価格の二つがある。本体価格とは文字通り、スマホやガラケーなどの価格そのもののこと。これについては、他の消費財とまったく同じだ。

 その上で、本体価格より大幅に安い、実質価格が設定されている。実質価格の定義は、通信事業者の支払う毎月の割引を適用したあとの価格のこと。これだけなら「割引価格」と呼んでもいいが、「実質」と言われるゆえんは、端末代が直接値引かれているわけではないところにある。端末代は端末代として払い、その上で、毎月の通信料が値引かれているのだ。

 たとえば、ドコモから発売されている「iPhone 6s」の16ギガバイト版は、オンラインショップでの端末価格が9万3312円になっている。ここに「月々サポート」と呼ばれる割引が6万1560円提供され、実質価格は3万1752円となる。

 注意したいのは、月々サポートが24カ月にわたって支払われること。途中で回線を解約したり、24回の月々サポートを受けきる前に機種変更したりすると、割引が途中で打ち切られる。そのため、想定していたよりも実質価格は高くなる。

 仮に12カ月で上記のiPhone 6sを機種変更したとすると、月々サポートは半額の3万780円。実質価格も6万2532円に跳ね上がる。24回(36回のケースもある)割引を受けきった前提での価格であることも、実質価格が実質と呼ばれる理由だ。

 分割を前提に本体価格が決まっていることをけん制はしているが、割引については、公正取引委員会の報告書にも「価格競争の表れであり、それ自体は望ましい」と記載されており、不正なものではない。

ドコモのオンラインショップでのiPhoneの価格。6万円以上の割引が出ている
ドコモのオンラインショップでのiPhoneの価格。6万円以上の割引が出ている

MVNOが端末価格で勝負できないのが問題

 一方で、割引が出せるのは、通信料金が元々ある程度高いからだ。割引の原資が通信料に含まれていると見ることもできる。

 こうした現状を考えると、大手通信事業者から回線を借り、格安スマホなどと呼ばれるMVNOの場合、元々の通信料が安いため、端末を大きく値引くのが難しい。

 上記の例をあてはめると、iPhone 6sの場合、月々2565円もの割引が出ているため、MVNOで同じことをしようとすると、毎月の料金がマイナスになってしまうケースも出てくる。

 結果として、MVNOでは割引なしの販売が一般的だ。性能的に中間程度のモデルでも、3万円前後が一般的。先に挙げたiPhone 6sの実質価格と、ほぼ変わらない価格になっている。毎月の通信料は安いが、相対的に、端末は割高になってしまっているというわけだ。

 公正取引委員会が問題視しているのは、まさにこの部分。MVNOが端末価格で勝負できないことが、競争の阻害になっているという見方を示している。

 報告書には「競争政策の観点からは前記販売方法は見直されることが望ましい」と記載されており、大手通信事業者の端末に対する割引が、見直される可能性も出てきた。

 各社とも、まだ具体的なリアクションは示しておらず、いくらまでの値引きならいいのかも不透明だが、割引を減らし、元々が高い端末は高く、安い端末は安くというような形に落ち着くことになるかもしれない。

 ただ、ユーザーからは、端末価格の値上げと捉えられるおそれもある。公正取引委員会の求める少額の割引がどの程度かにもよるが、少なくとも、本体価格が高額な機種は、今より売れづらくなりそうだ。

 各社とも、低価格モデルの開発に取り組んでいるため、こうした端末を選べば支払いが増えることは防げるが、機種選びの際には、今まで以上に性能と価格のバランスを見る必要が出てくるだろう。

au独自モデルで、価格を抑えた「キュアフォンPX」。ドコモも中国メーカーと低価格モデルの開発を検討しており、こうした機種が増えていく可能性もある
au独自モデルで、価格を抑えた「キュアフォンPX」。ドコモも中国メーカーと低価格モデルの開発を検討しており、こうした機種が増えていく可能性もある

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石野純也

石野純也

ケータイジャーナリスト

1978年、静岡県生まれ。慶応義塾大学総合政策学部卒。2001年、宝島社に入社。当時急速に利用者数を伸ばしていた携帯電話関連のムック編集に携わる。05年には独立してフリーランスのジャーナリスト/ライターに転身。通信事業者、携帯電話メーカー、コンテンツプロバイダーなどを取材、幅広い媒体に原稿を執筆する。業界動向を記したビジネス書から、端末の解説書まで著書も多い。

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