作家・楡周平さん=川村彰撮影
作家・楡周平さん=川村彰撮影

政治・経済経済プレミアインタビュー

現代版「御用聞き」が米物流の巨人を打ち負かす!?

編集部

 米国発のネット通販企業と、国内最大手の宅配業者の「やるかやられるか」の戦いをスリリングに描いた小説「ドッグファイト」(KADOKAWA)を7月29日に出版した作家の楡(にれ)周平さん。作家になる前は、米写真用品大手イーストマン・コダックに勤務し、デジタルカメラの登場で瞬く間に変化した写真市場の現場を体験した。そんな楡さんに、新刊のことや急激な技術革新への対応方法、東芝や三菱自動車など大企業で不祥事が起こる背景を話してもらった。1回目は、「ドッグファイト」を執筆した狙いについて聞いた。【田中学】

作家・楡周平さんインタビュー(1)

 −−ネット通販企業と宅配業者間の争いを通じて、流通業界の大変化を扱った最新刊「ドッグファイト」で描きたかったことは何でしょうか。

 ◆楡さん 10年、20年先の日本の社会を考えたときに、私は大変なことになると思っているんです。一つは、人口減による内需の縮小です。いま、日本の国内総生産(GDP)の6割を個人消費が占めています。人口減で個人消費が縮小したときに、企業はどこに生き残りの道を求めればよいのか。

 同時に、地方に取り残された人たちの生活が確実に不便になっています。かつては町に当たり前に存在した魚屋、肉屋、雑貨屋などがどんどん姿を消して、シャッター通りになっていますね。

 これは、大手資本がスーパーマーケットを地方に相次いで出店して、地元の商店を駆逐した結果です。ただ、肝心の人口が減るとスーパーの経営がもたなくなる。人がゼロになるからもたないのではなくて、ビジネスには採算分岐点があって、ある点を下回ると赤字になる。赤字を出す事業は、やる意味がないと判断され撤退となります。

 そうなったときに、スーパーが撤退した地方に取り残された人たちは、どうやってモノを買い、生活していけばいいのでしょうか。これを真剣に考えなければいけない時代が来ている。

 もちろん、今はネット通販がありますから近くに店舗がなくても、ネット通販に頼って生きていけばいいとなるかもしれません。あるいは、生きていくことができるのかもしれないけれど、みんながそれに頼って生活すれば、少数の大企業に市場を握られてしまいます。

巨大企業の雇用のあり方に疑問

 ──実際、ネット通販市場は年々拡大し、大手企業の伸びも著しいです。

 ◆米アマゾンや楽天などが代表例ですが、それらの企業に市場を牛耳られることが、社会にとっていいことでしょうか。私には決していいことだとは思えません。

 なぜかというと、現場で働いている人たちのほとんどが派遣労働者だからです。しかも、安い労働力を使っているにもかかわらず、さらにコストダウンを推し進めようとしている。つまり、ロボットによる無人化です。雇用の場は、確実に失われていきますよね。そうしたら、人々はどうやって生きていけばいいのでしょうか。

 すでに労働人口の3割以上が非正規雇用です。これは恐ろしい数字です。ほとんどの場合は時給制で、この時給も急激に上がるわけはありません。一度、非正規雇用の道に入ってしまうと、その生活が一生続くことになりかねない。

 非正規雇用で家庭を持てるのか、結婚できるのか。まして、子供を産んで家を買うことができるのでしょうか。かつては当たり前だった生活すら送れなくなるのです。結果的にますます人口減少が進みます。いま、この悪循環に入りつつあるのが、日本社会だと思っています。

 悪循環に陥らないために何をすればよいでしょうか。一つは農畜産業の6次産業化による地方活性化ですが、これは近作の「和僑」(祥伝社)に書きました。もう一つは地域商店の再生です。東京近辺であれば、まだまだ元気な商店街がたくさんあります。地方でも、当代で店じまいを考えているかもしれないけど、肉屋や八百屋などの商店が残っている町が結構ありますよね。

 そうした町の商店と高齢者や子育て世代のニーズをマッチングさせて地域密着型の宅配システムを構築すれば、まだまだ生き残っていけるのではないか、と考えて書いたのが「ドッグファイト」です。

現代版「御用聞き」が買い物難民を救う

 ──「ドッグファイト」では、地方の田舎町で宅配業者と商店が連携して、商店に電話注文が入れば、宅配専用車が商店に商品をピックアップしに行き、1時間程度で配送するというビジネスモデルが提案されていました。

 ◆昔の御用聞きです。電話で注文を受けたら、「すぐ持って行きますよ」というサービスへの需要って、今の時代ものすごくあると思うんです。うまくいけば、買い物問題が解消するだけでなく、お年寄りの健康確認としても機能するでしょう。

 それもニーズがあるのは日本だけではない。アメリカをはじめ海外でも立派に通用するんじゃないかと私は本気で思っているんです。日本の宅配業は世界一のサービスレベルですから。

 時間指定ができて、再配達も無料、代引きもできる日本の宅配業が、そのノウハウをベースに新しいサービスを確立し世界へ出て行けばとてつもない市場が開けるはずです。日本企業が海外に出て稼いで、そのお金が日本に戻って来るというサイクルができれば素晴らしい。ネットだけに頼らなくても工夫次第でもっと便利な仕組みが作れるはずなのです。

略歴

楡周平(にれ・しゅうへい)/作家

1957年岩手県生まれ。慶応義塾大学大学院修了。米写真用品大手イーストマン・コダック日本法人に入社。同社在職中に「Cの福音」で作家デビュー。経済小説をはじめ、幅広いジャンルの小説を執筆している。著書に「スリーパー」「フェイク」「ドッグファイト」など。地方創生をテーマにした「プラチナタウン」(2008年)も注目を集めた。

 <次回「ネット通販企業のビジネスモデルは誰を幸せにするか」>

経済プレミア・トップページはこちら

編集部

編集部

長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
twitter 毎日新聞経済プレミア編集部@mainichibiz
facebook 毎日新聞経済プレミア編集部https://www.facebook.com/mainichibiz

イチ押しコラム

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…

ニッポン金融ウラの裏

進む「キャッシュレス化」誰が責任を負っているのか

 キャッシュレス決済を巡る論議が高まり続けている。政府も外国人旅行者の増大を踏まえて、キャッシュレス化推進の旗を振り続けている。社…

知ってトクするモバイルライフ
デザインや機能を一新した「iPadプロ」。左が11型、右が12.9型

新「iPadプロ」はホームボタンなくして超高性能

 アップルは、米ニューヨークで10月30日(現地時間)、「iPadプロ」の新モデルを発表した。11月7日に発売される予定で、価格は…