桐野夏生さん=2011年12月、藤原亜希撮影
桐野夏生さん=2011年12月、藤原亜希撮影

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還暦前おじさんの欲と金と焦り 桐野夏生「猿の見る夢」

重里徹也 / 文芸評論家、聖徳大教授

 還暦が近づくと、男は来し方行く末を考える。自分の人生は何だったのか。やり残していることは何か。これから、何を楽しみに生きていくのか。カネの方は大丈夫か。何歳まで働くのか。死んだら、どこへ行くのか。

 それで、焦ったり、あがいたり、あきらめたりするのだ。

 桐野夏生の新作小説「猿の見る夢」(講談社)は還暦前の男を主人公に、この作家らしく、さまざまな欲望が渦巻く世界をやや戯画的に描いている。エゴイズムを拡大鏡で見るように暴き出す桐野の筆は確かで、長編を楽しく読み終えた。

 主人公は59歳。プチ・エリートといえばいいか。元・銀行員。46歳で女性衣料チェーンに出向を命じられ…

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重里徹也

重里徹也

文芸評論家、聖徳大教授

1957年、大阪市生まれ。大阪外国語大(現・大阪大外国語学部)ロシア語学科卒。82年、毎日新聞に入社。東京本社学芸部長、論説委員などを歴任。2015年春から聖徳大教授。著書に「文学館への旅」(毎日新聞社)、共著に「村上春樹で世界を読む」(祥伝社) などがある。