くらし下流化ニッポンの処方箋

「自腹・超勤・休みなし」ここまで来たブラックバイト

藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事

 千葉地裁で今、おそらく全国で初めての「ブラックバイト民事訴訟」が行われています。

 被告は、大手飲食店チェーン「しゃぶしゃぶ温野菜」のフランチャイズ運営会社。アルバイトだった原告の男子大学生Aさんが、未払い賃金や店長の暴行、暴言への慰謝料など計約800万円の支払いを求めた民事訴訟です。

 現代の労働環境の異常さと厳しさを象徴する裁判であり、私も少し関わっているので、今回はこのケースを紹介します。

大手飲食チェーン店の運営会社を訴えた元アルバイトの大学生
大手飲食チェーン店の運営会社を訴えた元アルバイトの大学生

学生が4カ月間休みなしの1日12時間も勤務

 Aさんを支援する「ブラックバイトユニオン」(東京都世田谷区、渡辺寛人代表)と私たちのNPOほっとプラスは協力関係にあり、Aさんのケースを当初から聞いていました。

 ブラックバイトユニオンのサイトや各メディアの報道によると、Aさんは大学1年だった2014年4月、しゃぶしゃぶ温野菜の千葉県内の店舗でアルバイトを始めました。

 当初は週4日、1日5時間程度の勤務でしたが、同年12月ごろから勤務が増え始め、15年4月から8月までは非番なしの4カ月連続勤務が発生しました。この間、午前0時の閉店後の片付けも任されるようになり、平均で昼12時過ぎから翌午前1時過ぎまで1日約12時間働いていたそうです。学生には過酷な勤務です。

 「辞めたい」と訴えたところ、当時の女性店長に「懲戒解雇にする。そうなったら就職できない」「店が潰れたら4000万円の損害賠償を請求する」などと脅されたり、飲み放題客が制限時間内に帰らなかった時は、「新しい客の注文を取れなかった損害」として、複数回にわたって自腹で約23万円を払わされたりしました。

 この女性店長はAさんに数々の暴言を吐き、包丁で肩を刺すなどの暴行もしていたと報じられています。精神的・肉体的なダメージを受け、Aさんは大学にも通えなくなって、15年度前期の全ての単位を落としてしまいました。

 以上の事実は、Aさんがブラックバイトユニオンに相談して明らかになりました。同ユニオンが運営会社に団体交渉などを申し入れ、話し合いましたが、誠意ある回答がなかったため提訴し、9月14日に第1回の口頭弁論が開かれたのです。

 運営会社側代理人は法廷で、未払い賃金の一部を支払うとしながら、女性店長のパワハラや暴力行為を否定し、「Aさんは勝手に店に来て、自発的に働いていた」と主張しました。

基幹労働をアルバイトに任せて利益を上げる会社

 これは、学生バイトを安くこき使うにもほどがある、というケースです。もともと社員の仕事である開店業務やシフト編成などの基幹労働を、時給制のアルバイトにやらせていること自体が問題です。

 賃金に見合わない大きな責任を持たせ、辞めようとすると「無責任だ! 賠償だ」と責め立てるのは、辞められると仕事が回らなくなり、新たに人を採用するのに手間とコストがかかるからです。それは店長の責任とされるのでしょう。

 法律的には、本人が辞めたいと言えば問題なく辞められますが、辞めさせてもらえないとなると、パワハラを超えてもはや強制労働でしょう。損害賠償とか懲戒解雇とか、店長の正気を疑うレベルの発言です。

 本来、労働契約を結ぶとき、賃金や労働時間について書面を交わさなければなりません。ところが近年、書面に書いてある条件を無視して、長時間働かせる会社が増えています。その結果、学生アルバイトが定期試験を受けられない、就職活動ができないと相談してくるケースが相次いでいます。

 厚生労働省が今年5月に公表した「高校生のアルバイトに関する意識調査」によると、対象者1854人のうち60%が、勤務先から労働条件通知書を渡されず、18%が、労働条件を口頭でも具体的に説明された記憶がないと回答しました。

 また32.6%が、労働条件で何らかのトラブルがあったと回答しています。トラブルの中身はシフトに関するものが最も多く、賃金不払い、深夜業や休日労働もありました。この傾向は大学生や専門学校生にもあてはまるはずです。

 報道によると、Aさんを脅した店長も休みなく働いていたそうです。ブラック企業の社員が、やむを得ず、バイト学生にブラック労働を押しつけていたという悲惨な構図です。

 立場の弱い学生が上司に労働条件が違うと訴えても、なかなか聞き入れてはもらえないでしょう。その時は労基署や外部の相談機関、ユニオンに相談してください。収入が必要とはいえ、学業や就活を犠牲にしては本末転倒です。

 <「下流化ニッポンの処方箋」は原則毎週1回掲載します>

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藤田孝典

藤田孝典

NPO法人ほっとプラス代表理事

1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(毎日新聞出版)「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」「貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち」など。

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