社会・カルチャー猫ブームの光と陰

猫ブームを裏で支えるペットオークションの実態

駅義則 / 元時事通信記者

 ペットショップに行けば可愛い盛りの子猫や子犬が何匹もいて、お気に入りの一匹を選べる。ショップが常に多数のペットを用意できるからこそ成り立つ商売だ。背景には、繁殖業者(ブリーダー)とペットショップを組織的につなぐ日本独自の「ペットオークション」というシステムがある。いったいどういう仕組みなのだろうか。

ペットオークション会場の関東ペットパーク=埼玉県上里町で2016年10月5日、駅義則撮影
ペットオークション会場の関東ペットパーク=埼玉県上里町で2016年10月5日、駅義則撮影

700匹を次々と「競り」に

 「6万円、6万1000円…。はい6万5000円」。

 白衣を着た男性2人が、空気穴の開いたダンボール箱から子犬や子猫を一匹ずつ取り出し、周囲の机に座る30人余りのバイヤーによく見えるように差し出す。頭上のモニターには「ラグドール、8月14日生まれ」などと、品種や生年月日、出品者などの情報が表示される。

オークションの様子
オークションの様子

 司会者が1000円刻みで値段をアナウンスするのに合わせ、バイヤーが手元の「応札」ボタンを押す。1人に絞られたところで、落札価格が決まる。競りの時間は1匹あたり1分程度。見事な流れ作業だ。

 競りは正午からだが、その数時間前からブリーダーが子犬や子猫約700匹を持ち込んで、業者が用意した箱に入れて並べていた。まず獣医が目や肌、骨格など健康状態を1匹ずつ検査する。ブリーダーも立ち会い、医療面で助言も受ける。検査に合格すれば箱に戻されて競りに向かう。

 取材した10月5日は約90のブリーダーと約30社のショップが参加し、猫と犬の割合は約3対7だった。かつては犬がほとんどだったが、ブームを背景に最近では猫も増えてきたという。不合格になるのは毎回5、6匹程度。これ以外に、その日の状態では高くは売れないとしてブリーダーが出品を取り消し、いったん持ち帰る例も目についた。

獣医2人によるペットの検査。オークション会場の隣で行われていた
獣医2人によるペットの検査。オークション会場の隣で行われていた

全国に22あるオークション業者

 自治体に登録されているペットオークション業者は全国で22ある。取材させてもらったのは、業界では2番手の「関東ペットパーク」(埼玉県上里町)だ。同社の上原勝三社長は北海道から関西まで14のオークション業者が加入する一般社団法人「ペットパーク流通協会」の会長を務める。最大手の業者は協会に参加していない。

 関東ペットパークのオークションは毎週水曜日。協会加盟の他業者と開催曜日をずらし、ショップ側の仕入れ機会を増やしている。検査不合格となったりショップで売れ残ったりした子犬や子猫はいったん引き取り、提携先の六つの動物愛護団体が飼い主を探す。病気で廃業したブリーダーの犬や猫も、愛護団体や他のブリーダーに回すなどして極力救ってきたという。

「最大の元凶はネット通販」

 ペットオークションに対しては、動物保護団体からの批判が根強い。大量生産と大量廃棄を助長しているとの主張だ。公益社団法人・日本動物福祉協会の町屋奈・調査員は「ペットオークションを廃止するなどして大量生産に歯止めを掛けない限り、不幸な環境に置かれる動物は減らせない。蛇口を締めないと問題は解決しない」と強調する。

子猫や子犬は箱に入れられオークションを待つ
子猫や子犬は箱に入れられオークションを待つ

 上原氏は「生き物を競りにかけるのは誰が見ても良くはないが、批判を受けて改善も進めてきた。オークションを通じてブリーダーと獣医、ショップが情報を共有し、衛生面などのレベルも上げてきた」と語る。さらに、オークション業界全体には不透明さが残ることは認めながらも「一気に廃止されたら、大量のペットが捨てられかねない」と主張する。

 同氏によると、国内全体のペット流通のうち、オークション経由の比率は65%程度。チェーン展開する大規模ショップが増え、比率が急上昇してきた。かつてはショップがブリーダーから直接調達する形が主流だったが、現在の比率は5%に下がっている。

 そして、残る約30%は、ブリーダーがインターネットを通じて顧客に直接販売する「ネット直販」。上原氏は最大の問題はネット通販業者にあると指摘する。安くて手軽な半面、「飼育実態をごまかしやすいし、トラブルを招く悪質なブリーダーも多い」からだ。

 環境省の統計によると、昨年4月時点で犬猫を販売するのは1万6000事業者。このうち、繁殖を行っているのは約1万2400にのぼる。自治体に登録しさえすれば、だれでもブリーダーになれるのが実情だ。上原氏自身、「犬に比べて猫は飼育が簡単。猫バブルともいうべき価格上昇で安易なブリーダーが増えると、後が怖い」と危惧する。

 緩い規制のなかで、流通のルートから落ちこぼれるペットたちがいる。次回はブームの闇の部分である、悪質な引き取り業者の実態を紹介する。

 <次回「売れ残った犬猫がたどる悲しい運命を知っていますか」>

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駅義則

駅義則

元時事通信記者

1965年、山口県生まれ。88年に時事通信社に入社。金融や電機・通信などの業界取材を担当した。2006年、米通信社ブルームバーグ・ニュースに移り、IT関連の記者・エディターなどを務めた。また、飼い主のいない猫の保護や不妊化にも携わっている。

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