スキル・キャリア部下を伸ばす上司 ダメにする上司

組織を進化させる魔法の発想「外部の人は宝の山」

細川義洋 / ITコンサルタント

 現在、筆者は経済産業省の政府CIO(内閣情報通信政策監)の補佐官として、海外の電子政府事情を調査しています。その結果から、電子政府のキーである国民IDカード(日本のマイナンバーカードに相当)の利用で、日本がかなり遅れていることがわかります。

 例えば、カードがあれば、出産、教育、医療、転居、社会保険、年金などの行政サービス手続きをスマホで済ませることができる国が多々あります。投票やネットバンキングなどにカードが活用されている例も少なくありません。長くIT関連の仕事をしてきましたが、この調査で初めて知ることばかり。まさに「井の中のかわず」でした。

自社での当たり前が外では非常識!?

 「井の中のかわず」にならないことは働く人や組織にとっても大切です。上司には、自分はもちろん部下たちもそうならないようにする役割もあるでしょう。そのためには、組織内で教えられたり、培ってきたりした常識を疑う目を持てるかどうかが重要です。自社での当たり前が外では非常識、ということはよくあります。

 以前、筆者が大手IT企業からITコンサルタント会社に転職したときに驚いたのは、問題を起こさないプロジェクトマネジャーよりも、問題が起きたときにチームで協力して解決したマネジャーの方が高い評価を受けていたことです。

 大手IT企業では、マネジャーたちは多少の問題があっても上司に報告することなく、何ごともなかったように自分だけで解決しようとしていました。それが責任だと信じていたのです。しかし、どんな問題でも解決するにはマネジャー1人の頭脳より、上司や部下などの知恵にも頼った方がいいはずです。

 もちろん、ITコンサルタント会社の情報共有と相談の文化も、マネジャーの責任感が育たないという面もあるでしょう。一概にどちらが正しいとは言えません。ただ、一つのことだけを常識として信じて部下にもそれを教え込めば、考えの偏った頭の固い組織ができてしまいます。変化に柔軟に対応することが求められる今の時代には、大きな弱点になり得ます。

外部の若手が提案した常識を覆す手法

 大手IT企業に所属していたときのことです。筆者がマネジャーを務めるシステム開発プロジェクトに、外注先のある若手エンジニアが参加しました。当時のシステム開発では、要件定義書や設計書、テスト仕様書などドキュメント類を確実に作成し、順序立てて進めていくのが最良とされていました。作成したドキュメントをメンバーで確認してからプログラム作りに着手する、というのが常識だったのです。

 ある日、若手エンジニアがその仕事の進め方に異を唱えました。「規模の小さなシステムならドキュメントは後回しにしましょう。とにかく顧客から聞いたことをもとにプログラムを作り、顧客に確認してもらって修正した方が早く良いものができます。ドキュメントは議事録とメモで十分です」と言ったのです。

 筆者とメンバーは眉をひそめて「そんなやり方は、とりあえず動けばいいという品質軽視のモノづくりだ」と反対しました。しかし、若手エンジニアは、「ドキュメントという中間成果物を作ること自体が、伝言ゲームで危険だ」と持論を曲げませんでした。

 筆者は若手エンジニアの意見を取り入れたやり方を試してみました。それが正しいと判断したわけではありません。若手エンジニアがプロジェクト内で最もスキルが高く技術的にも中心メンバーだったので、押し切られたのです。結果的に従来よりも早く、高品質なプログラムを作ることができました。実は、若手エンジニアが提案したやり方は、現在のIT業界では一般的に用いられる開発方式でした。

自分の常識にとらわれていては進歩はない

 これを経験して以降、筆者はチーム内に「外部の人は宝の山」という意識を広めるよう心がけました。転職者や異動者、外注先の人は、自分たちの知らないことを必ず知っていて、良い意味で常識を壊す可能性がある貴重な存在という意識です。会議や打ち合わせに参加してもらって意見を求め、それが自分たちの驚くようなものであればあるほど、真剣に議論してみる──そんなことをするようになりました。

 すると、それまでまったく知らなかったやり方をいくつも得ることができました。今では、業界内で普通に行われるようになっていることもありました。もちろん、外部の人の考えや意見が、すべて正しいわけではありません。しかし、自分の常識にとらわれて、外部の知恵を一切受け付けないようでは進歩はありません。それでは、個人でも組織でも、厳しいビジネス競争を勝ち進んでいくことはできないでしょう。

 <「部下を伸ばす上司 ダメにする上司」は毎週火曜日掲載です。次回は11月8日です>

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細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

1964年、神奈川県生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。NECソフト(現NECソリューションイノベータ)、日本IBMでシステム開発やコンサルティングを行う。著書に「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」「IT専門調停委員が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則」(日本実業出版社)などがある。

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