くらし高齢化時代の相続税対策

「タワーマンション節税規制」はすでに始まっている

広田龍介 / 税理士

 東京都港区のTさん(67)はタワーマンションで相続対策をすることを検討している。90歳の母親の物忘れが多くなったので急がなければいけないと思っているが、少し迷いがある。

 というのも、国税当局がタワーマンションへの課税強化で節税対策を規制する方針を打ち出しているからだ。実際、税務署の取り扱いが厳しくなっていると聞いて、私の事務所に相談に来た。

評価ギャップを利用するタワマン節税

 不動産は、現在の価値=時価ではなく、相続税評価額で決まる。多くのケースで評価額は時価よりも低いので、節税になる。

 マンションの土地の相続税評価額は、国税庁が毎年発表する路線価に基づいて決まる。

 「1平方メートルあたり路線価×区分所有土地持ち分に係る面積」により算出した土地分と、建物全体の固定資産税評価額を、専有部分の割合に応じて算出した評価額--を合計したものだ。

 住戸が多い大規模タワーマンションほど1戸当たりの土地面積が小さくなるため土地分は小さくなり、さらに、専有面積が同じなら低層階も高層階も同じになる。そのため、資産価値の高い高層階の部屋を購入した方が、相続税課税対象の資産を「より圧縮」できることになる。

 例えば、1億円で購入したタワーマンションの部屋の相続税評価額が、購入価格の2割程度の2000万円なら、8000万円の評価差額が生じる。この部屋を相続後、購入価格の1億円で売却すると、税率を50%としても、相続税4000万円を節税できる。

バブル期には「評価ギャップ節税」が規制されたことも

 国税庁はこうした節税方法が、税負担の「公平性・平等性」を損なうと見て、課税強化方針を打ち出したのだ。具体的には、高層階ほど固定資産税が高くなるよう見直し、2018年1月から実施する方針と報道されている。

 地価が高騰したバブル時代は、時価と評価額との差額、つまり評価ギャップが大きかった。時価と比べて相続税評価額は20%程度、あるいはそれ以下のケースもあったほどだ。そのため、一度この節税手段が規制された。不動産を取得した後3年間は、時価で評価することになったのだ。

 その結果、相続直前の不動産取得による節税効果はなくなった。取得してから少なくとも3年間は長生きしてもらわなければ、相続税評価額での評価にならないからだ。法人による不動産取得も同じように規制された。

 その後、バブルがはじけて不動産価格が下がり、時価と相続税評価額のギャップが少なくなると、個人については3年縛りは解除された。法人については今も3年縛り規制が続いている。

「購入即転売」は税務署で否認される傾向

 現在、税務署に相続税申告を否認されたケースを調べてみた。するとやはり、単に節税だけが目的とみなされたタワーマンション購入事例が多かった。居住や賃貸目的ではない、相続税の節税対策と見なされると、購入した不動産を時価で申告するよう求められるようだ。

 しかし、納税者が行う相続税の申告は法律に従って適正に財産評価されている。納税者には何の落ち度もない。課税当局は独自の判断で財産を評価しようとしている。その根拠が、国税庁の伝家の宝刀と呼ばれる「財産評価基本通達」だ。

 通達第1章<総則>の第6項に「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と規定されている。

 一般的な不動産取引と比べて、その目的が相続税の節税目的のための一時的な取得なら、国税庁長官が改めて評価額を指示することができる。税負担の公平性・平等性を担保するために、このような広い裁量権が与えられている。

 ではこの時期、Tさんはタワーマンションの部屋を購入するべきだろうか。投資運用で持ち続けるのであれば、相続税評価額が多少上がったとしても、相続対策として大きな影響はないと考え、Tさんは購入を決断した。

 <「高齢化時代の相続税対策」は毎週日曜日更新です。次回は11月27日です>

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広田龍介

広田龍介

税理士

1952年、福島県いわき市生まれ。85年税理士登録。東京・赤坂で広田龍介税理士事務所を開設。法人・個人の確定申告、相続税申告、不動産の有効活用などを中心に幅広くコンサルティング活動を続けている。相続税に関する講演やセミナーも開催している。

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