イルミネーションが輝くクリスマスツリー=尼崎市武庫之荘1で2016年12月24日、釣田祐喜撮影
イルミネーションが輝くクリスマスツリー=尼崎市武庫之荘1で2016年12月24日、釣田祐喜撮影

政治・経済良い物をより高く売る経営

「クリスマスよりハロウィン」若者消費の変化とは

中村智彦 / 神戸国際大学教授

若者の消費行動の変化(1)

 アパレル関係者にとって、この12月の温暖な気候は頭の痛い問題だったことだろう。11月24日、首都圏では都心で積雪を観測する降雪があったが、12月は暖かい日が続き、23日には東京で最高気温が19.6度まで上昇した。

 クリスマスにかけて、冬物衣料の販売は苦戦を強いられたはずだ。12月23~24日に、若者が集まる新宿や池袋などの中小アパレル販売店が入居するファッションビルを歩いてみると、人出は多いが、購入商品の入る紙袋などを持っている人は少なかった。

 だが何より目についたのは、各店舗のクリスマス装飾や商品が少ないことだ。クリスマス色の薄さに、かつての“商戦”の熱気を知る筆者の世代からすると拍子抜けの感があった。この盛り上がりに欠けるアパレル業界の状況は、温暖な気候のせいではない。近年の若者のクリスマスの過ごし方と、「物」を買う環境の大きな変化が背景にあるのだ。

クリスマスに盛り上がるのは中高年以上の世代

銀座三越のクリスマスツリー=12月23日、中村智彦撮影
銀座三越のクリスマスツリー=12月23日、中村智彦撮影

 筆者のゼミ生たちにクリスマスの過ごし方を聞くと、「バイト」「予定はない」という答えが大半。「彼女と食事」と唯一答えた男子学生も「焼肉ですけど」だそうだ。「デートならフレンチだろう」と言うと、「それは親の時代」「ハロウィンの方が盛り上がります」と反論された。プレゼントも「特別にほしいものはない」とつれない返事だ。

 “恋人がサンタクロース”だったり、“きっと来ない君のためにプレゼント”を買ったりするのは一世代前の話のようだ。若年世代のクリスマスへの無関心が、若者向けの店舗のそっけない装飾に反映されていた。

 一方、銀座や日本橋の老舗百貨店や高額商品を扱う店舗では、例年通りのクリスマス商戦が展開され、多くの中高年層の顧客が買い物に訪れていた。中高年がホームパーティーに持参する手土産を購入する姿があふれていたのだ。かつて、クリスマスで盛り上がった世代が、今もその市場をけん引している。

20代独身男性の3人に1人が「クリぼっち」

 クリスマスの時期を独りで過ごすことを意味する「クリぼっち」という言葉が、2012年ごろから使われるようになった。LINE×博報堂ブランドデザイン若者研究所の共同プロジェクト「若者インサイトラボ」が、12月20日に発表した「2016クリスマス実態」という調査結果がある。

 これによると、20代独身男性の33%がクリスマスに恋人や友だち、家族と過ごす予定がないと答えている。3人に1人が「クリぼっち」ということだ。「恋人や好きな人と2人きりで過ごす」のは28%。次いで、「友だちと過ごす」が23%で、「家族と過ごす」が20%だった。

 20代独身女性も「クリぼっち」が26%で、約4人に1人。「恋人や好きな人と二人きり」が32%、「家族と過ごす」が30%、「友だちと過ごす」が26%だった。

自分自身にプレゼントを買う独身男性も

 同調査のクリスマスに使う予定の支出額を見ると、女性よりも男性の方が高額だ。男性では、既婚者よりも独身者の方が支出額が高い傾向にある。

 興味深いのは、20代独身男性のプレゼントを贈る相手だ。「恋人や好きな人」が31%というのは理解できる。しかし、それに次ぐのが「友だち」や「自分自身」で、いずれも6%なのだ。

 プレゼントの平均金額は「恋人や好きな人」へ贈る場合、1万8620円。一方で、「友だち」は1982円。そして「自分自身」には1万8257円と、恋人へのプレゼントとほぼ同額である。20代独身男性の中には、クリスマスの時期に自分のためにお金を使う人たちが多少なりともいる。

「物を買う」環境が変わり始めている

 こうした若者をターゲットとする「クリぼっち」市場を狙う小売りや流通業の動きも見られる。その動向は、洋菓子店に並ぶ1人用クリスマスケーキからわかる、という意見もあるようだ。しかし、はたして「クリぼっち」たちは街にわざわざ買い物に出かけるのだろうか。ネット通販での買い物が大半で、的を外しているように思えてならない。

東京駅近隣の商業施設「KITTE」内に設置されたクリスマスツリー=12月24日、中村智彦撮影
東京駅近隣の商業施設「KITTE」内に設置されたクリスマスツリー=12月24日、中村智彦撮影

 先の調査によると、20代独身者のクリスマスの過ごし方は、1位が男女ともに「仕事やアルバイト」。男性の2位は「ひとりで、いつも通り自宅で過ごす」で、女性の2位は「家族と一緒に自宅で過ごす」だ。

 近年のクリスマス市場の変化は、若者のクリスマスへの無関心の影響も大きいが、消費者が「物を買う」環境に大きな変化が起こり始めていることも考えなければならない。若者の消費行動とメーカーと流通側の供給体制の変化は、クリスマス時期に限ったことではないからだ。

 ファッションやアパレルの苦戦は、この数年続いている。16年は、外資系アパレルの撤退や国内アパレル店舗の閉鎖が話題となった。さらに、中小のアパレル系企業の廃業や倒産も相次いだ。

 訪日外国人客による「爆買い」が終わって百貨店の不振に注目が集まるが、国内の小売業全体が大きな変化のさなかにあるといえる。次回はその状況を見ていこう。

 <次回は、「ただモノを売るだけではリアル店舗は生き残れない」です。「良い物をより高く売る経営」は不定期掲載です>

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中村智彦

中村智彦

神戸国際大学教授

1964年、東京都生まれ。88年、上智大学文学部卒業。96年、名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程修了。外資系航空会社、シンクタンクで勤務。大阪府立産業開発研究所、日本福祉大学経済学部助教授を経て、現職。専門は中小企業論と地域経済論。中小企業間のネットワーク構築や地域経済振興のプロジェクトに数多く参画し、日テレ系「世界一受けたい授業」の工場見学担当も務める。

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