政治・経済良い物をより高く売る経営

ただモノを売るだけではリアル店舗は生き残れない

中村智彦 / 神戸国際大学教授

若者の消費行動の変化(2)

 昨年は、訪日外国人客の「爆買い」が下火となったことで百貨店不振がしばしば話題になったが、不振は百貨店だけではない。一昨年の暖冬の影響もあり、アパレル業界も低迷が続いている。それは気候のせいばかりとは言えない。クリスマス商戦すら盛り上がりにかける状況だ。この背景には、消費者が「物を買う」環境の大きな変化がある。まずは、アパレル業界の昨年の苦境から見てみよう。

国内、外資アパレルともに閉店、撤退が相次ぐ

 2016年5月、米衣料品店大手GAP(ギャップ)が傘下のカジュアル衣料品店「オールドネイビー」の日本国内全店(53店舗)を、17年1月末までに閉鎖すると発表した。

 16年8月には、スウェーデンのカジュアル衣料チェーンH&M(ヘネス・アンド・マウリッツ)グループの女性向けブランド「MONKI(モンキ)」が、国内2店舗を閉鎖。13年に国内初進出したばかりだった。

 11月にも大きなニュースがあった。15年に経営難に陥った米大手衣料品メーカー・アメリカンアパレルが、日本から完全撤退したのだ。05年の日本進出以降、12年には渋谷レディース館が同ブランドの売上高世界一となるなど人気を集めたが、その後は販売不振が続いていた。

 海外ブランドだけに限らない。国内大手アパレルでも、ブランドの廃止や店舗撤退を進めている。ワールドは、16年3月末までに13ブランドの廃止と、約3000店舗のうち479店舗の撤退を行った。大手アパレルが経営の抜本改革の動きを強める余波を受けて、中小企業でも関係企業の倒産や破産が相次いでいた。

大型ショッピングセンターも苦境に

 もともとブランド衣料をメインに扱っていたのは百貨店だ。その百貨店が衰退した理由には、アパレル企業の直営店などを数多く抱える大型ショッピングセンター(SC)やモールの台頭と、大規模製造小売業チェーン(SPA)と呼ばれる、生産から販売までを手がける低価格メーカーの急成長があると言われてきた。SPAの代表格は、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングだ。

 しかし現在、大型SCの台頭やSPAの急成長にも変調が起こりつつある。大手小売りチェーンの閉店が増えているが、16年8月、中部地方に本拠を置く大手ユニーグループが、主力事業の総合スーパー228店のうち25店舗を19年2月末までに閉鎖すると発表した。すでに閉鎖を発表していた11店舗を合わせると、総店舗数の約15%にのぼる。

 9月には、コンビニエンスストア3位のファミリーマートと、ユニーグループ・ホールディングスの経営統合が行われた。ユニーグループ傘下で同4位サークルKサンクスをファミリーマートと統合する一方で、傘下の呉服チェーン店や婦人服専門店は売却、ホームセンター事業からは完全撤退と大幅なリストラが行われたことが話題となった。

ユニー・ファミリーマートホールディングスの経営陣=2016年9月1日、林奈緒美撮影
ユニー・ファミリーマートホールディングスの経営陣=2016年9月1日、林奈緒美撮影

 SPAでは、世界的な傾向として経営不振が表面化しつつある。先述のアメリカンアパレルやギャップが代表例だが、ユニクロも国内店舗の苦戦が伝えられている。賃料が高い都心部の路面店でも、賃料が安く大規模な駐車場を整備できる郊外の幹線道路沿いでも、客足、売り上げともに伸びない状況が続いているのである。

変化するメーカー側の商品供給体制

 一方で、メーカーの商品供給体制にも変化が見られる。米スポーツ用品メーカー・ナイキは、シンガポールで17年1月から中小小売店への商品供給を停止すると通告。実は、ナイキは14年にイギリスで同様の措置を行った。年間2万5000ポンド以上の商品を販売できない小売店に靴や衣類といった商品の供給を拒否したのだ。

 これはナイキだけではない。複数のスポーツ用品メーカーが同様の動きを見せている。背景には、ネット通販の普及がある。メーカー自らがネットショップで販売できるようになり、コストをかけて中小小売店に商品を供給するメリットが薄れているのだ。今後、自社ネットショップと大手小売店に限定した市場開拓を指向する可能性も否定できない。

 そうなれば、世界各国で経営危機に直面する中小スポーツ用品店が数多く出てくるだろう。家族経営の中小小売店は大手メーカーの商品をそろえて集客し、大手小売りチェーンよりも低価格で販売するスタイルが多いのだ。

 中小小売店では、単純に「物」を売る意識では商売が成り立たなくなっている。一般的な商品の販売競争では、ネット通販の方が価格や配送の面などから有利なことを多くの消費者が実感しているだろう。

中小小売店が生き残る道とは

 実は、ナイキはネット通販に加えて、もう一つ新しい戦略を打ち出している。それは「顧客体験」の創出だ。大手小売店を会場にイベントを開催したり、体験型の施設を設けたりする。単純に「物」を売るだけでは、顧客を引きつけられないと考えているのだ。

 中小小売店でも、売る「物」に加えて、消費者が体験したい、さらに便利になるといった「こと=体験」という価値の提供が欠かせなくなるだろう。実店舗を「物」のショーウインドーにするのではなく、販売員が直接消費者に「こと」を見せる場とするのだ。大手ブランド頼みは終わり、個性と独自性が試される淘汰(とうた)の時代を迎えている。

 クリスマスのようなイベントで消費者が動くことはなくなるかもしれない。「クリぼっち」が象徴する若い世代に売るためには、まずネットで「物」の情報伝達を行い、実店舗で「こと」の体験と感動を提供する、といった販売方法の確立が不可欠だろう。

 <「良い物をより高く売る経営」は不定期掲載です>

経済プレミア・トップページはこちら

(1)「クリスマスよりハロウィン」若者消費の変化とは

「夢よもう一度」25年万博誘致で大阪は元気になるか

山形の三セク温泉施設「まどか」が“劇的再生”した理由

企業城下町崩壊 ロボット開発で再興図る山形県長井市

ダイソン、ティファールはなぜ成功したのか

松下幸之助の「水道哲学」はもはや通用しないのか

中村智彦

中村智彦

神戸国際大学教授

1964年、東京都生まれ。88年、上智大学文学部卒業。96年、名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程修了。外資系航空会社、シンクタンクで勤務。大阪府立産業開発研究所、日本福祉大学経済学部助教授を経て、現職。専門は中小企業論と地域経済論。中小企業間のネットワーク構築や地域経済振興のプロジェクトに数多く参画し、日テレ系「世界一受けたい授業」の工場見学担当も務める。

イチ押しコラム

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…

ニッポン金融ウラの裏

進む「キャッシュレス化」誰が責任を負っているのか

 キャッシュレス決済を巡る論議が高まり続けている。政府も外国人旅行者の増大を踏まえて、キャッシュレス化推進の旗を振り続けている。社…

知ってトクするモバイルライフ
デザインや機能を一新した「iPadプロ」。左が11型、右が12.9型

新「iPadプロ」はホームボタンなくして超高性能

 アップルは、米ニューヨークで10月30日(現地時間)、「iPadプロ」の新モデルを発表した。11月7日に発売される予定で、価格は…