くらし高齢化時代の相続税対策

「控えめな節税か悪どい租税回避か」それが問題だ

広田龍介 / 税理士

 相続財産を意識的に隠すと脱税だが、不動産の評価ギャップや各種特例を活用することは「節税」--と、これまで言われてきた。しかし、法律上認められる対策であっても、税務当局は近年、なぜその対策を講じたのかを厳密に調べる。

 つまり、法形式が整っていても、その目的が、課税の公平性を損ないかねない「悪質な租税回避」かどうかを、問うようになったのだ。

 一般的な相続税の節税は、以下の五つの手法で行われる。(1)財産そのものを減らす(2)評価を引き下げる(3)税率を引き下げる(4)税制上の特例を適用する(5)財産を増やさない--。

 具体的には、財産贈与、不動産の売却・購入、アパート・マンション建築、生命保険・退職金の活用、法人化、養子縁組、底地・借地の整理、会社清算などの手法が使われる。しかし、昔はいろいろな制度が相続税の節税に「悪用」されていた。

租税回避に悪用された養子縁組制度

 1988(昭和63)年12月、相続税法改正で、税法上の「養子」の取り扱いが改正された。

 民法上、養子は実子と同様に相続人として扱われる。そして相続税法上は、相続人1人当たり600万円の基礎控除がある。2人なら1200万円。5人で3000万円、10人で計6000万円の基礎控除になる。

 相続財産から基礎控除額を差し引いた額が課税相続財産だ。その財産が10億円あるとして、相続人が1人であれば、10億円の相続税率は最高の55%が適用される。しかし、相続人が2人ならば1人当たり5億円で、税率は50%となり、5人なら1人当たり2億円で税率は40%まで下がる。10人では1人あたり1億円なので、税率は30%にまで下がる。

 88年までは、基礎控除を増やし、相続税率を下げるためだけに、生前対策として何人もの養子縁組をまとめる行為がまかり通っていた。合法的な節税対策とされていたのだ。

 さすがに税務当局は、養子縁組制度を私物化することで不当に相続税納税額を減少させる行為と判断した。実子がいる場合は養子1人まで、いない場合は2人までを相続人とするよう法律を改正したのである。

新宿に完成した高さ169メートルの京王プラザホテル。そのほかに高層の建物はほとんどなかった=1971年撮影
新宿に完成した高さ169メートルの京王プラザホテル。そのほかに高層の建物はほとんどなかった=1971年撮影

タワマン購入で債務超過会社を作る方法も

 不動産の時価と評価額のギャップを利用した節税対策の中でもここ数年、タワーマンションを活用した節税対策が人気だった。評価ギャップによる節税効果がより大きかったからだ。

 しかし、家族の居住用、投資用、財産分け用と並行して購入し、ルールに沿って節税を図るのならともかく、相続税の節税効果をフルに享受したのち、すぐ売却するような露骨なケースも目立っていた。

 例えば、法人を作ってタワーマンションを購入し、その法人株式を無税贈与することで、納税なしに資産を移転した事例がある。

 ある人が、1億円の財産を子供に残したいと考えた。そこで、会社を設立し、手持ち現金1億円と銀行に借りた1億円で、売価(時価)2億円のタワーマンションの1室を購入した。

 タワーマンションの相続税評価額は時価の20%程度なので、4000万円とする。会社は3年後、4000万円の資産に対して借入金が1億円ある状態、つまり6000万円の債務超過会社になった。

 相続税法上は、債務超過会社の株式価値はゼロだから、この株式を子供に贈与しても贈与税はかからない。会社は子供の手に渡り、その後タワーマンションを2億円で売却し、借入金1億円を銀行に返済して会社を清算すれば、子供の手元には1億円が丸々残る。贈与税をかけず、子供への資産移転が完了した。

 法人が土地、建物を購入した時は、購入後3年間は時価、つまり購入価格で評価しないといけないが、3年を過ぎると相続税評価額で評価できる。タワーマンションの相続税評価額は高層階ほど時価より低いので、この手法が有効なのだ。

適正な納税は「社会への相続」だ

 養子縁組を利用した事例も、意図的に債務超過会社を作って無税で資産を移転した手法も、その意図はあまりにあからさまだ。税務当局が「節税という名の租税回避」と見なしても仕方がないと思う。

 特に後者について税務当局は「資本金相当額の現金贈与を意図した租税回避」と見なして、追徴課税をした。よほど腹に据えかねたのだろう。

 「過ぎたるは及ばざるがごとし」という格言がある。節税だけが相続対策ではない。適正な納税も、あなたの資産を社会に移す相続の一つである。

 <「高齢化時代の相続税対策」は毎週日曜日更新です。次回は1月29日です>

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広田龍介

広田龍介

税理士

1952年、福島県いわき市生まれ。85年税理士登録。東京・赤坂で広田龍介税理士事務所を開設。法人・個人の確定申告、相続税申告、不動産の有効活用などを中心に幅広くコンサルティング活動を続けている。相続税に関する講演やセミナーも開催している。

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