ヤマザキマリさん=小川昌宏撮影
ヤマザキマリさん=小川昌宏撮影

政治・経済経済プレミアインタビュー

移民に優しい国イタリアは欧州分断の波に乗るのか

編集部

ヤマザキマリさんに聞く(2)

 欧州ではイギリスが欧州連合(EU)離脱を宣言し、主要国でも欧州統合に反対する極右政党が勢いを増してきた。「テルマエ・ロマエ」で知られ長くイタリアに住む漫画家のヤマザキマリさんに、欧州統合の行方を聞いた。インタビュー後編をお届けします。【聞き手は経済プレミア編集部、平野純一】

 ──イギリスが欧州連合(EU)からの離脱を決めるなど、欧州統合に反対する動きが顕著になってきました。

 ◆ヤマザキマリさん イタリアでは欧州統合に反対を表明するポピュリスト政党の「五つ星運動」が勢力を伸ばしています。北部にも欧州統合に懐疑的で独立心の強い「北部同盟」があります。フランスでは極右政党の「国民戦線」、ドイツでも右派の「ドイツのための選択肢」が台頭し、統合に反対の姿勢を示しています。

昨年12月の国民投票で敗れイタリアのレンツィ首相は辞任=福島良典撮影
昨年12月の国民投票で敗れイタリアのレンツィ首相は辞任=福島良典撮影

 欧州統合に反対の動きが急に大きくなったのは、2015年夏ごろから移民や難民がドッと押し寄せてきたことが大きく影響しています。しかしイタリアはイギリスやフランスに比べると移民や難民の流入に寛容な面があります。「五つ星運動」や「北部同盟」も、フランスやドイツに比べると主張はマイルドなように思います。

 これはイタリアの歴史が関係していると思います。イタリアは古代ローマ帝国は強大でしたが、ローマ崩壊以降はさまざまな国から侵略を受けてきました。北部からイスラムからと、さんざん攻められた歴史があります。地政学的にも地中海の真ん中に突き出した半島にはどこからでも入ってくることができます。

フランスは旧植民地からの移民になぜか差別意識

 ──とはいえ、あまりに多くの移民や難民が入ってきたら社会が混乱するのでは。

 ◆イタリアの場合は北アフリカから小さな船に乗って来ることができます。これはここ数年の話ではなく、1990年代ごろからずっとある話です。

ヤマザキマリさん=小川昌宏撮影
ヤマザキマリさん=小川昌宏撮影

 先日、取材で南部のシチリア島に行きましたが、主要都市のパレルモはまるでアフリカの都市のようになっていました。パレルモの人たちが住まなくなったような場所に住み、アフリカ風の壁画を描いて、アフリカのご飯を作って食べています。

 政府が彼らに対応できているかといえば、まったくできていません。入ってくるのを止めたいと思っても止めようもありません。政府は公式的には何とかしなければと言っていますが、実際には排除しようとはしていないのです。このあたりはイタリアらしいといえばイタリアらしいところです。イタリアは移民の受け入れに比較的寛容なのです。

 しかし、例えばフランスでは、フランス人が持っている移民に対する独特の威圧感のようなものがあります。特に南仏では、アフリカからの移民はアフリカ人だけ、ベトナムの移民はベトナム人だけで固まって、社会にあまり溶け込んでいません。

 イギリスやフランスのように、かつて植民地を持った列強国は、移民に対しても、自分たちが面倒をみないといけないという意識があります。しかし、なぜかその旧植民地からの移民に対しては非常に強い優越感や差別の意識があるように感じます。

 イタリアは大規模な植民地を持ったことはなく、一時期アフリカのエリトリアを植民地にしたくらいです。イタリアは逆に他国に多くの移民を出してきました。欧州の各国やアメリカにはイタリア南部から多くの移民が出て行きました。ブラジルには北イタリアから多くの移民を出しています。だから、イタリアに移民や難民が押し寄せても、「人のことを言えた筋合いではない」という意識がどこかにあるのだと思います。

EU統合には希望もあったが今は分岐点

 ──では、今後のEU統合はどうなっていくのでしょうか。

 ◆EU統合は、古代ローマに置き換えて、一つの大きな共同体ができて通貨も一つになり、新しく明るい未来が待っているという希望がありました。第二次大戦後の歴史を踏まえたうえで、統合はひとつの大きな力になるのではないかと感じました。

ローマ時代の姿を今に残すポンペイ遺跡=横田美晴撮影
ローマ時代の姿を今に残すポンペイ遺跡=横田美晴撮影

 しかし現在は、やってはみたけど、うまくいかなかったじゃないかと考える人が増えてきていることは確かでしょう。私は10代でイタリアで暮らし始め、それ以降、冷戦崩壊も経験して東欧がむちゃくちゃな状態になっていくのも見てきました。「移民を排除したがる北部同盟なんて誰も支持しないよ」と最初は思っていましたが、意外にも強い力を持っていることも感じてきました。

 今年はオランダ、フランス、ドイツなど欧州の主要国で選挙を控えています。そこでもしEU離脱派が勝ったりすると、一気に遠心力が働く可能性もあります。戦後の長いEU統合の歴史の中で、何らかの分岐点に差しかかっているなということは肌身で感じています。

 一方で、通貨ユーロからの離脱、EUからの離脱を果たしたとしても、それで市民の生活が良くなるのかというと懐疑的な見方が多いのも事実です。イタリアの場合は、ドイツ、イギリス、フランスのように経済も強くないし、統合をやめたと言っても、それに代わる新しい何か次のステップが用意されているわけではありません。島国のイギリスは一歩先に飛び出しましたが、大陸側の国はまだしばらくは様子見の時期が続くのではないでしょうか。

略歴

連載中の「プリニウス」から (c)ヤマザキマリ、とり・みき
連載中の「プリニウス」から (c)ヤマザキマリ、とり・みき

ヤマザキマリ / 漫画家

 1967年東京都生まれ。フィレンツェ・アカデミア美術学校で絵画を学ぶ。96年にイタリアでの暮らしをつづったエッセーマンガでデビュー。現在はイタリア北部パドバ市在住。映画にもなった「テルマエ・ロマエ」は「2010年度マンガ大賞2010」「第14回手塚治虫文化賞短編賞」を受賞、累計部数は900万部。2016年度文部省芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。現在は月刊誌「新潮45」に「プリニウス」(とり・みきさんと共著)などを連載中。

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長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
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