英国のワインジャーナリストやソムリエが駆けつけた甲州ワインの試飲会=2017年2月1日、三沢耕平撮影
英国のワインジャーナリストやソムリエが駆けつけた甲州ワインの試飲会=2017年2月1日、三沢耕平撮影

グローバル海外特派員リポート

「年4万本輸出」英国拠点に発信する甲州ワインの実力

三沢耕平 / 欧州総局特派員(ロンドン)

 日本のワイン発祥の地・山梨県。その特産のブドウで造られたワイン「Koshu(甲州)」が世界市場に浸透し始めている。世界遺産登録によって広がりを見せる日本料理とマッチする味わいであることに加え、生産者と行政の官民一体のPR活動が奏功しているようだ。ワインの本場・欧州に日本のワインをいかに売り込むか。その戦略拠点がロンドンにあった。

 「これだけの味ならもっと普及してもいい」。ロンドン市内のホテルで1日に開かれた甲州ワインの試飲会。参加した現地のワインジャーナリストから驚きの声が上がった。

 試飲会を主催したのは山梨県内のワイナリー11社。会場には、ワインジャーナリストのほか、BBCのワイン番組の著名キャスターや卸売業者、ソムリエなどワインに精通する英国人約200人が駆けつけ、ペンを片手に味や風味をチェックしながらテイスティングしていた。

ロンドンでのプロモーションには山梨県のワイナリー11社が参加。生産者からは「甲州ワインはロンドンで鍛えられた」との声も=2017年2月1日、三沢耕平撮影
ロンドンでのプロモーションには山梨県のワイナリー11社が参加。生産者からは「甲州ワインはロンドンで鍛えられた」との声も=2017年2月1日、三沢耕平撮影

世界のワイン情報が集約されるロンドン

 ワイン大国といえば、伝統的にフランスとイタリアの名が挙がる。なぜ、ロンドンなのか。試飲会に参加した山梨県ワイン酒造協同組合の木田茂樹理事長(ルミエール代表)は「世界のワイン情報が集約されて発信される場所はワインの専門家が数多く存在するロンドン。世界市場に流通できるかどうかは、ここロンドンで評価されるかどうかで決まる」と言い切る。

 山梨県のワイナリーは早くからPRの戦略拠点をロンドンに定め、主要なワイナリーで「甲州ワインEU輸出プロジェクト(KOJ)」を結成。7年前からロンドンプロモーションを実施してきた。今年のプロモーションは1月29日から1週間の日程で、後藤斎知事や甲州市の田辺篤市長も参加。安価で気軽に味わってもらうため、期間中はロンドン市内の日本食レストラン5店舗でボトル単位ではなくグラス単位で提供できるようにした。

「甲州ワインを世界へ」との思いを込め、ロンドンに空輸するワインを確認する関係者=山梨県笛吹市で2017年1月18日、加古ななみ撮影
「甲州ワインを世界へ」との思いを込め、ロンドンに空輸するワインを確認する関係者=山梨県笛吹市で2017年1月18日、加古ななみ撮影

 甲州ワインの輸出は飛躍的な伸びを見せている。ロンドンでのプロモーションを始めた2010年度には1992本だったが、15年度は4万2342本と、わずか5年で20倍以上に拡大。品質の向上もめざましく、世界90カ国以上で発行されるロンドン発のワイン情報誌「デカンター」が主催する世界最大の審査会では、山梨県の中央葡萄酒(甲州市勝沼町)のワインが14、15年と2年連続で最高賞を受賞。16年のワイン・トップ50にも同社のワインがランクインした。

 KOJのプロジェクト事務局長も務める同社の三澤茂計社長は「著名なジャーナリストが集うロンドンでの試飲会を通じて我々も鍛えられた。多くの指摘を受けてワインの品質を向上させてくることができた」と振り返る。

 日本食が浸透してきたこともワイン輸出を後押しする。丸藤葡萄酒工業(同)の大村智英子取締役は「甲州ワインは繊細な味わいの和食にマッチする。和食の世界遺産登録は我々にとっても大きなチャンスだ」と話す。欧州の料理は「ソース」をベースにした濃厚な味わいが特徴だ。だが、近年はフランス料理やイタリア料理にも日本料理などの影響を受けた繊細な味わいを追究するメニューが増えており、甲州ワインのさらなる浸透が期待できる。

国税庁も表示ルール整備で後押し

 ワイン輸出を巡っては、欧州の厳しい規制も壁になっていた。欧州連合(EU)加盟国で販売できるワインはEU法が規定する製法に沿ったワインでなければならないほか、ラベルに表示できるブドウ品種も国際ブドウ・ワイン機構(OIV、本部・パリ)が認めたもののみ。甲州ワインの原料である甲州ブドウは登録されていなかったが、山梨県など行政の後押しもあって10年に品種登録。ラベルに「甲州」と印刷したワインをEU加盟国で販売することが可能になった。

ロンドンに空輸するワインを確認するワイナリー関係者=山梨県笛吹市で2017年1月18日、加古ななみ撮影
ロンドンに空輸するワインを確認するワイナリー関係者=山梨県笛吹市で2017年1月18日、加古ななみ撮影

 主要なワイン産地には国レベルでワインの品質を保証するワイン法制が整備されているが、日本にはワイン法がない。このため、世界市場で「まがい物」として扱われてしまう懸念があったが、酒類行政を所管する国税庁が13年に山梨県産のブドウを100%使わなければラベルに「山梨」と表示できないルールを整備。生産者からは「国税庁の表示ルールでブランド価値が高まったことが世界市場に通用するきっかけになった」(ワイナリー社長)との声も聞かれる。

 昨年5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、日本のワインが各国首脳に振る舞われた。世界の要人が来日した際、首相官邸で晩さん会を開くことがあるが、「積極的に日本のワインを振る舞うようにしている」と政府関係者。日本のワインを世界へ。官民一体の奮闘が続いている。

 <「海外特派員リポート」は原則、土曜日に更新します>

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三沢耕平

三沢耕平

欧州総局特派員(ロンドン)

1972年千葉県生まれ。明治大学法学部卒。98年毎日新聞社入社。松本、甲府支局を経て、2004年から経済部で財務省、日銀、財界などを取材。政治部にも在籍し、首相官邸、自民党などを担当した。16年10月から欧州総局特派員。

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