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「トランプ資源相場」は未体験ゾーンに突入した!?

エコノミスト編集部

 米トランプ政権の誕生により、資源価格が上向く期待が高まっている。上昇基調の背景と先行きは。週刊エコノミスト3月14日号の巻頭特集「資源総予測2017」よりダイジェストで報告します。

資源相場を支える米中「オールドエコノミー」

 1兆ドル(約113兆円)のインフラ投資──。トランプ米大統領は2月28日の上下両院合同会議での演説で、改めて公約の実現に意欲を示し、議会に協力を求めた。

トランプ米大統領が打ち出したインフラ政策が資源価格に追い風=西田進一郎撮影
トランプ米大統領が打ち出したインフラ政策が資源価格に追い風=西田進一郎撮影

 大規模なインフラ投資が実際に実施されることになれば、鉄鋼や銅などの資源需要は大幅に伸び、米国内の重厚長大産業は大きな恩恵を受けることになるだろう。

 世界2位の経済大国である中国もまた、化石燃料の需要が衰えていない。石炭や鉄鋼の過剰在庫解消を進めるために打ち出した構造改革が、思うように進んでいないためだ。今秋の5年に1度の共産党大会に向けて、インフラ投資などにより一定の経済成長を維持する必要があり、2017年は抜本的な対策に取り組めない状況にあることも資源需要を後押しする。

 米中の2大大国の「オールドエコノミーへの回帰」が、現在の資源市況を支えている。

ボックス圏の原油は「嵐の前の静けさ」

 ただ、資源の中でも最大規模となる原油市場は、16年末に石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC諸国の協調減産が決定して以降、指標の米国産標準油種(WTI)が1バレル=50~55ドルを推移する「ボックス圏相場」となっている。

原油価格はいまボックス圏だが……
原油価格はいまボックス圏だが……

 現在のボックス圏相場は、価格の上昇要因と下落要因が絶妙なバランスを取ることで成り立っている。

 米中需要の底堅さや協調減産が順調なことのほか、イランへの制裁強化や親イスラエル政策などのトランプ政権の中東政策への懸念が価格上昇圧力になる一方、シェールオイルの増産や協調減産が守られないことによる供給過剰懸念が上値を抑えている。

 この絶妙なバランスは、容易に崩れなさそうだが、逆に世界の市場関係者が「ボックス相場は揺るがない」と、「ボックス圏外」を織り込んでいないことが、リスクかもしれない。ロシアなどの非OPEC諸国が大幅増産に動き、それにイランをはじめOPEC諸国やシェールオイル勢が追随すれば、供給過剰から原油価格は急落するだろう。

 そうした懸念を一段と高めるのが、先物市場の動向だ。ニューヨークWTI原油先物市場で、投機筋に当たる非商業部門の先物買い越しポジションが史上最高水準となっている。

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は「需給バランスが取れ、原油価格は上昇すると楽観しているヘッジファンドがロング(買い持ち)を積んでいる。ただ、価格は投機筋が思うほど上がっていないので、ひとたびヘッジファンドが売りに回れば、40ドル台に急落する恐れがある」と指摘する。

中国も化石燃料の需要は依然として衰えていない
中国も化石燃料の需要は依然として衰えていない

 トランプ政権の誕生以降、米国の銅の先物市場などにも投機マネーが流れ込んでいるため、同様のリスク要因を抱えている。

緩和マネーでインフレ予想

 それでもなぜ、投機マネーが資源投資に向かっているのか。

 08年のリーマン・ショック以降、世界的な金融緩和によりマネーがあふれている。欧州や日本をはじめ先進国が軒並み低金利となり、投資先がこれまで大きなウエートを占めていた債券市場から、株式や資源、通貨へと多様化している。

 トランプ政権が掲げる減税やインフラ投資などの景気刺激策によって人々のインフレ予想が高まっていることも、実物資産であるコモディティーへの投資が増えている要因と見られる。

 現在、従来は資源価格の下押し圧力とされてきたドル高や米金利上昇、株高が同時に起きている。楽天証券経済研究所の吉田哲・コモディティアナリストは「金融緩和によって『過去の教科書』が当てはまらなくなりつつある」と指摘する。

 吉田氏は「資金があふれ、投資家はいろいろな投資先を物色している。株を見ていた人が、コモディティーや通貨にも投資するようになり、一見関係のない投資対象の値動きが連動しているように見える。このため、景気が良いと思えば、株やコモディティーなどが同時に上昇するという流れになっているのではないか」と分析する。

 過去の教訓や経験がきかない──。17年の資源相場は、そんな未体験ゾーンに突入したようだ。

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 この記事は、週刊エコノミスト3月14日号の巻頭特集「資源総予測2017」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

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エコノミスト編集部

エコノミスト編集部

藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。

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