液晶パネル工場の起工式でくわ入れをする鴻海精密工業の郭台銘会長(中央)と胡春華・広東省党委書記(右)=中国・広東省広州で2017年3月1日、赤間清広撮影
液晶パネル工場の起工式でくわ入れをする鴻海精密工業の郭台銘会長(中央)と胡春華・広東省党委書記(右)=中国・広東省広州で2017年3月1日、赤間清広撮影

グローバル海外特派員リポート

東芝半導体買収で鴻海会長が勝利宣言する日はくるか

赤間清広 / 毎日新聞中国総局特派員(北京)

 「広州では過去最大規模の投資になる」

 3月1日、中国南東部に位置する広東省広州市で開かれた新工場の起工式で、鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(かく・たいめい)会長は声を張り上げた。通称「テリー・ゴウ」と呼ばれる注目の人物である。

 鴻海の傘下企業が整備する液晶パネル工場の総投資額は610億元(約1兆円)。起工式には広東省トップで、将来の中国の指導者候補とも言われる胡春華・同省党委書記も駆けつけ、手放しでホンハイの誘致成功を喜んだ。

 起工式に注目したのは地元政府だけではない。国内外のメディア関係者もこぞって取材に訪れた。郭会長からどんな発言が飛び出すのかを確認するためだ。それほど郭会長はここ数年、産業界で多くの話題を振りまいてきた。

 台湾に本社を置く鴻海のビジネスモデルは日本の電機大手とはだいぶ異なる。鴻海は独自の製品は作らず、顧客から渡された設計図通りに製品を量産する「工場部門」の提供を本業としている。米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の生産を請け負っているのも鴻海だ。

広州に整備される新工場の模型。世界最大級の液晶パネル工場で、郭台銘会長が攻略を目指す「8K」対応パネルの製造拠点となる=2017年3月1日、赤間清広撮影
広州に整備される新工場の模型。世界最大級の液晶パネル工場で、郭台銘会長が攻略を目指す「8K」対応パネルの製造拠点となる=2017年3月1日、赤間清広撮影

シャープを買収した郭会長の「次の狙い」

 その鴻海を一代で世界最大の受託製造メーカーに育てた郭会長が「話題の人」になったのは、経営不振に陥ったシャープ買収がきっかけだ。

 これまで電機業界の「黒衣」に徹してきた鴻海が、シャープという世界ブランドを手に入れたことで一気に表舞台に飛び出した。次の一手は何なのか。起工式に足を運んだメディア関係者の興味もそこにあった。

 「8K技術なしに生き残ることは難しい。我々は生産量と技術で世界一になる」。記者団に囲まれた郭会長がこの日、最も熱心に語ったのは鴻海の主力事業の一つであるテレビパネル事業の将来ビジョンについてだ。

 8Kはハイビジョンの16倍の解像度を持つ次世代放送。現在主流の「4K」対応パネルでは、韓国サムスン電子などに先行を許している。いち早く8Kパネルの量産体制を築くことで、市場の主導権を一気に握るのが鴻海の狙いだ。巨額の費用をつぎ込む広州工場は8Kパネルの生産拠点とする方針だ。

 郭会長は「8Kではシャープがこれまで蓄積してきた専門知識が非常に重要になってくる」と述べ、高い液晶パネル技術を持つシャープのノウハウを最大限活用していく方針を強調した。

大勢のメディア関係者に囲まれ、グループの戦略を語る郭台銘会長。東芝の半導体メモリー事業買収にも高い関心を示した=2017年3月1日、赤間清広撮影
大勢のメディア関係者に囲まれ、グループの戦略を語る郭台銘会長。東芝の半導体メモリー事業買収にも高い関心を示した=2017年3月1日、赤間清広撮影

東芝半導体買収「極めて真剣に検討」

 しかし、この日、8K以上にメディアの関心を集めたのは、経営不振に陥っている東芝が売却を検討している半導体メモリー事業に対する郭会長の前のめりな姿勢だ。

 半導体事業買収の可能性を問われた郭会長は「極めて真剣に検討している」と即答した。「我々とシャープは最強のチームになった」とシャープ買収を例に挙げ、日本メーカーとの協業実績をアピール。「我々は東芝の製品を世界で販売することもできるし、工場を中国に招待することもできる」と強調し、東芝との関係強化にも強い意欲を示した。

 東芝の半導体事業の売却額は1兆円超とされ、買収は鴻海にとっても大きな賭けとなる。狙いはどこにあるのか。郭会長が挙げたのは、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)と呼ばれる最新の記憶媒体の将来性だ。

 さまざまな分野でより大容量のデータ処理の必要性が高まる中、郭会長は「SSDが将来の産業の核となる」とにらんでいる。SSDの中核部品となるNAND型フラッシュメモリーは東芝の看板商品だ。東芝の半導体事業を握ることで、将来の産業のキーパーツとなるSSD市場で一気に有利な地位に立てるというわけだ。

 郭会長の発言を裏付けるように、鴻海が東芝の半導体事業買収に向け、大手半導体メーカーなどに共同出資を打診しているとの報道も相次いでいる。

 シャープに続き、東芝でも郭会長は勝利宣言ができるのか。尽きることない話題性と確かな実績で、いまやアジアを代表する「企業家」となった郭会長を追いかける日々は当面、終わりそうにない。

 <「海外特派員リポート」は原則、土曜日に更新します>

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赤間清広

赤間清広

毎日新聞中国総局特派員(北京)

1974年、宮城県生まれ。宮城県の地元紙記者を経て2004年に毎日新聞社に入社。気仙沼通信部、仙台支局を経て06年から東京本社経済部。経済部では財務省、日銀、財界などを担当した。16年4月から現職。中国経済の動きを追いかけている。

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