ニューヨーク証券取引所のLINE上場を記念する装飾=2016年7月14日、清水憲司撮影
ニューヨーク証券取引所のLINE上場を記念する装飾=2016年7月14日、清水憲司撮影

IT・テクノロジーネットから読み解く経済・社会

LINEが直面する「ポータル化」のジレンマ

まつもとあつし / ジャーナリスト

 無料通信アプリなどを展開するLINEは2017年1月25日、16年12月期決算を発表しました。同社の言う「日本、台湾、タイ、インドネシアの主要4カ国」で成長は続くものの、グローバル月間アクティブ利用者数(MAU)は、11年のサービス開始以来初めて減少に転じました。

 同社の出沢剛社長は昨年7月の日米同時上場の際、「陣取り合戦は終わった」と発言しています。今後は主要4カ国でシェアを守り、その中での成長を目指す方向に潮目が変わったと言えますが、LINEははたして盤石なのでしょうか。それを考えるために、携帯電話とサービスを巡る主導権争いの歴史を振り返りましょう。

通信業界でのLINEの立ち位置

 従来型携帯電話(ガラケー)の各種サービスは、大手通信キャリアーが一手に担っていました。NTTドコモのiモードなどです。しかし、スマホが普及すると、アプリや決済サービスなどで、iOSやアンドロイドといったオペレーティングシステム(OS)を提供する、米アップルとグーグルが主導権を握るようになりました。

LINEの舛田淳取締役=2016年9月5日、尾村洋介撮影
LINEの舛田淳取締役=2016年9月5日、尾村洋介撮影

 こうした変化で、大手通信キャリアーはスマホの通話・通信インフラ提供が事業の中心となりつつあります。通信キャリアーのプラットフォーム(基盤)の上に、アプリなどのプラットフォームを展開するアップルとグーグルがいるのです。

 そしてLINEは、アップルなどの基盤の上に、メッセージアプリを起点としたさまざまなサービスの「ポータル」プラットフォームを築きあげようとしています。

 LINEの舛田淳取締役(各種サービスの企画・運営担当)は、この状況を「プラットフォームonプラットフォームonプラットフォーム」と表現しました。

局地戦ではLINEを上回るライバルがごろごろ

 ところが同社の売り上げを見ると、広告事業は伸びていますが、ゲームや音楽などの「コンテンツ」、スタンプなどの「コミュニケーション」は漸減傾向です。主要4カ国ではメッセージアプリとして高い人気ですが、ポータルとしてのコンテンツやコミュニケーションへの課金では、必ずしも成功していないのです。

 コンテンツは、他社との競争が激しい分野です。定額聴き放題の音楽サービスでは、世界最大手のSpotify(スポティファイ)が昨年日本に参入し、国内勢のAWA(アワ)などが曲数や機能の充実を図っています。

 ゲーム分野でも、ソーシャルゲームが強みのミクシィなどに、アプリ売り上げランキングの上位を占められています。LINEは、メッセージアプリで2億人超の利用者数がありながら、コンテンツサービスの利用には十分につなげられていないのが実態です。

 国内アプリ利用者数ランキングではLINEアプリが1位ですが、ブラウザーで圧倒的シェアを占めたヤフーの「天気」「乗換案内」など、個別機能の単体アプリが上位に入っています。ヤフーも以前は一つのアプリで複数サービスを展開していました。しかし、現在は、防災情報やニュースなどの単体アプリを作り、シェア拡大を目指しているのです。

 パソコンブラウザーの覇者ヤフーでさえも、スマホの分野では大きなシェアを占めることができていません。「天気」「乗換案内」など単体アプリの優位性をそれぞれ高めなければ利用者から「選んでもらえない」のです。

 ヤフーは韓国でシェアナンバーワンのメッセージアプリ「カカオトーク」と組んで、LINEを追撃しましたが、成功していません。「ヤフージャパン」というポータルアプリも上記ランキングに入っていますが、「乗換案内」「天気」の単体アプリの方が上位です。

 インターネット利用の中心がパソコンだったころは、さまざまな機能を備えたポータルサイトの運営が強みでした。しかし、スマホ中心になると、ポータルという方向性がリスクになることを、ヤフーの事例から見て取ることができます。

東京証券取引所で打鐘に臨むLINEの出沢社長(奥)ら=2016年7月15日、片平知宏撮影
東京証券取引所で打鐘に臨むLINEの出沢社長(奥)ら=2016年7月15日、片平知宏撮影

「ニュース」の取り込みは吉か凶か

 2月23日、LINEはアプリ内に「LINEニュース」を取り込むことを発表しました。ニュースアプリの分野には、利用者数ランキングで上位に入る「SmartNews」「ヤフーニュース」などの強力なライバルがいます。

 LINEは、単独アプリで提供していた「LINEニュース」のコンテンツをメッセージアプリにも提供することで、利用者へのサービス向上と利用率のてこ入れを図ろうとしているようです。そして、さまざまな機能やサービスを備え、生活インフラとしての「ポータル」を目指す方向性を明確にしたといえます。

 しかし、こうした動きがLINEアプリの足かせになる可能性があります。もともとLINEアプリは、利用者同士が気軽にコミュニケーションする「軽さ」が特徴です。そこに決済やゲーム、ニュースなどが付け加えられることで、気軽に利用しづらい「重い」アプリになってしまう恐れがあります。例えば、決済機能のあるアプリは厳しいセキュリティーが求められ、利用者に敬遠されかねません。

 セキュリティーを重視するLINEは、スマホの機種変更の際、アプリのデータ移行のために複雑な手順を踏まなければなりません。手順に失敗して、それまでのメッセージなどを失ってしまった利用者も少なくないはずです。

 また、複数のパソコンで利用すると、たびたび個人認証が求められます。なりすましなどの不正を防ぐためですが、さまざまなサービスや機能を加えることで「軽さ」を失っているように思えます。フェイスブックやスカイプなどに比べて使い勝手を下げているでしょう。

 普段私たちは日常のさまざまな場面で振る舞いを使い分けます。仕事、プライベートなどで振る舞いを切り替えて利用するメッセージアプリは、そうした人の習性に合ったものでしょう。しかし、それを「ポータル化」するのが、人の習性に合うとは必ずしも言えないようです。そうしたジレンマをLINEが乗り越えられるのかどうかが注目されます。

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まつもとあつし

まつもとあつし

ジャーナリスト

ITベンチャー、出版社、広告代理店、映像会社などを経て、現職。ASCII.jp、ITmedia、ダ・ヴィンチなどに寄稿。著書に「知的生産の技術とセンス」(マイナビ/@mehoriとの共著)、「ソーシャルゲームのすごい仕組み」(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。

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