くらしニッポンの給料

「残業代割増率1.25倍」はなぜ設定されているのか

神田靖美 / リザルト株式会社代表取締役

 サラリーマンが給与明細書で最も気にするのが、支給欄の「基本給」と「残業代と各種手当」でしょう。前回は、基本給とその決まり方を説明しました。今回は、「残業代と各種手当」を取り上げます。

 基本給は、所定内労働時間の労働への報酬です。「成績」が反映されるため、サラリーマンが唯一努力で増やせるものです。所得のベースにもなります。

 「残業代と各種手当」は、ベースの基本給に上積みされる形で支給されます。なぜ、給料がこうした構造になっているのでしょうか。残業代と手当が支給される理由とその種類を見ていきましょう。

残業時間と種類で割増率は変わる

 手当とは、基本給とは別に、社員の労働や生活・家族事情に対して支払われる賃金の一種です。社員の生活を補助するなどの目的で支給され、「職務関連手当」「生活関連手当」「超過勤務手当」の大きく三つに分けられます。この三つの中で、サラリーマンの給与額を大きく左右するのが「超過勤務手当」、つまり残業代でしょう。

 給与明細には、「時間外手当」「深夜残業手当」「休日出勤手当」などと記載されますが、残業代は労働基準法に定められる「割増賃金」です。社員が所定労働時間を超えて労働した場合に支給される報酬です。報酬なので、福利厚生の手当とは目的が違いますが、給与明細の記載に合わせて説明します。

 会社にとっては、2人の社員に2人分の仕事をしてもらうよりも、1人の社員に2人分の仕事をしてもらう方が、コストが安くすむなど効率的です。業務量が増えても社員を増やすのではなく、残業で対応しようとするのです。

 しかし、社員が長時間労働を強いられれば、健康を損なってしまいます。そこで労働基準法は、残業に割高な賃金を支払うように定めて、会社が社員に過剰な労働をさせないようにけん制しているのです。残業には種類があり、それぞれで割増率が異なります。とても重要なことなので覚えておきましょう。

 所定労働時間外の割増率は1.25倍▽月60時間を超える法定外残業の場合は1.50倍▽法定休日の出勤の場合は1.35倍▽法定外休日の出勤の場合は1.25倍▽深夜残業の場合はさらに、基本報酬の0.25倍分を上乗せします。

 「月60時間を超える法定外残業」「法定休日」「法定外休日」については、「サラリーマンが知っておくべき『給与明細書』の中身」を参照してください。

 深夜残業の「0.25倍分上乗せ」とは、午後10時から翌午前5時までの深夜帯に勤務した場合、所定労働時間外の残業や休日出勤の手当に、深夜残業手当としてさらに0.25倍分を上乗せするよう定めたものです。

 毎月の給与明細書で残業時間に誤りがないか、残業の種類ごとに正しい割増賃金が加算されているかどうかを確認しましょう。

職務、生活関連手当の支給基準は会社が設定

 次に、職務関連手当と生活関連手当を見てみます。通常、これらの手当は定額で、会社ごとに支給基準が明確に定められています。自分が各種手当の基準に該当するかどうかを就業規則(給与規定)で確認しましょう。

 職務関連手当は、社員の職務の特性に合わせて支給されます。職務の特性とは、部下を監督すること、高所や高温・低温の場所で作業すること、作業のために公的な資格を取ることなどです。役付手当、特殊作業手当、特殊技能手当といった名称で支給されます。

 役付手当は、昇進するに従って金額が上がります。前回、昇進で基本給が上がることを説明しました。なぜ、役付手当も昇進とともに増額されるのでしょうか。基本的に課長以上には残業手当の支給がないからです。役付手当が実質的な残業手当なのです。基本給が高い役職者は、役付手当も多くなければ他の社員との釣り合いがとれません。

 生活関連手当には、家族手当、住宅手当、単身赴任手当などがあります。世界的に見ても特殊な仕組みですが、日本企業は「会社は正社員の生活費に配慮すべきだ」とする考えが強いのです。一般的に以前、労働組合運動が盛んだった業界の会社が、生活関連手当を導入する割合が高い傾向があります。

 一般的な給与規定は、「手当は、増額すべき理由が発生した場合は本人が届け出た月から増額する。減額すべき理由が発生した場合にはその理由が発生した月から減額する。誤って支給した賃金は返還させる」と定めています。

 ある手当の支給基準を満たした時、逆に基準を満たさなくなった時はすぐに会社に届け出ましょう。そして、変更後の手当と額を、翌月の給与明細書で確認してください。

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神田靖美

神田靖美

リザルト株式会社代表取締役

1961年生まれ。上智大学経済学部卒業後、賃金管理研究所を経て2006年に独立。著書に「スリーステップ式だから成果主義賃金を正しく導入する本」(あさ出版)、「社長・役員の報酬・賞与・退職金」(共著、日本実業出版社)など。日本賃金学会会員。早稲田大学大学院商学研究科MBAコース修了。

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