社会・カルチャー街の文化漂う 秘蔵の宿

「遊び感覚」楽しむ京都の宿 サクラテラス ザ・アトリエ

稲葉なおと / 紀行作家、一級建築士

3700円(税込み)~

 ホテルにはまだまだ新しい試みが残されている。滞在中にそう、何度も気づかされた。

 京都駅から徒歩6分のこのホテルは、チェックインの説明からしてユニークだ。

 まずはこのホテルだけで使用できるコイン通貨がある。1000円で6枚交換。どこか遊び感覚で楽しめるだけでなく、1枚が167円換算だが、それを200円分として使えるので、宿泊中は現金を使うよりもコインを使用したほうがお得だ。

自分で豆をひいてコーヒーをいれる

 部屋に上がる前に、アメニティーコーナーで必要なものを選んでください、といわれる。見ると楽しさあふれる品が棚にそろう。

 ジュエリーハンガー、デザインがユニークなポット、可愛らしい目覚まし時計、ゴミやホコリを取る「コロコロ」も床用と服用がある。セレクト雑貨店を訪れたような気持ちだ。

 プラスチックのナイフ・フォークセットの入るバスケットに「カトラリーセット」と書かれているのには思わず笑みを浮かべてしまった。

 1階コミュニティースペースではコーヒー、紅茶が自由に飲める。ロビーにコーヒーメーカーを置きご自由にというホテルは珍しくないが、ここにあるのは機械ではなく各種コーヒー豆と、それをひくミル。好みの豆を選んで、ミルでガリガリとひいて自分でコーヒーをいれるのだ。喫茶店の新米店員気分で、ミルから立ち上る香りがまたたまらない。

 そしてもう一つ、なるほどと思ったのは、1階コミュニティースペースで食事の持ち込みは自由だが、必ず所定の食器にいったん移し替えて食べてください、と説明されたことだ。

 座り心地のよいソファや椅子が用意され、手に取りたくなる書籍が並ぶ。Wi-Fiも完備となれば長居したくなる。そこに、コンビニ弁当をそのまま広げるのではなく、専用の皿に移し替えて、というのだ。

 共用空間の雰囲気はデザインや照明によって形作られるが、もっとも重要なのは、そこで過ごすゲストによるもの。ルールを設けることでゲスト同士が快適にということなのだろう。

パティシエの心がこもる人気のスイーツ

 取材を申し込んだそもそものきっかけは、既に本連載で取材・撮影した「サクラテラス」「サクラテラス ザ・ギャラリー」の系列新ホテルでありながら既存ホテルとは異なるユニークな客室形式だったからだ。

 全84室。部屋は8平方メートルからとコンパクトに計画。トイレ・バスは共同だが大浴場もあり、いわゆるホステルとは異なり全室個室。4ベッドや2ベッドルームは2段式ベッドで、上と下で会話がしやすいL字形だ。

 日が暮れきり、夕食は外で済ませ、ホテルに戻った。1階で少しのんびりしてから部屋に上がろうと思い、人気のスイーツがあるというので、メニューを見せてもらう。

 出されたのは、つい細部まで読みたくなる、黒板文字とイラストを組み合わせた手描きメニュー。パティシエ自身の作だという。なるほど、心がこもっているわけだ。

 スイーツ1個1コインと聞いて迷わず「ニューヨークチーズケーキ」と「さくら餅の新しいスタイル」を注文。コーヒーをひいて、それぞれのおいしさを味わいつつ、ゆっくりといただいた。

ホテルのお仕着せでないサービス

 朝食はハーフビュッフェ。チョップドサラダ(すべての具材を同じ大きさに刻んでスプーンでも食べやすいサラダ)など各種サラダ、オリーブやトマトのマリネ、野菜がたっぷり入ったミネストローネスープ、ヨーグルトやフルーツ、そして各種飲み物はビュッフェ形式で、メインは3種類の1プレート料理から選ぶ。

 迷った末にビーフシチュー・セットを選び、撮影用に卵、ハム、トマトを挟んだクロワッサンサンド・セットも用意してもらった。

 ビュッフェ料理も、ビーフシチューも本格的なのに驚かされる。牛肉はタマネギとともにとろとろにとろけ、ブロッコリーやジャガイモといった野菜がごろごろ入っている。これで800円。コインで払えば4コイン、668円だ。

 このホテルには、いくつものユニークなルールや試みがある。

 その根本にあるのは、ホテルからのお仕着せではなく、お互いさまの精神だ。たとえ1泊でも同じ建物内に住む人同士、互いに気を配ることで、自分たちのホテル滞在時間を楽しくする。

 ホテル側は、そのきっかけを提供しているのだろう。

サクラテラス ザ・アトリエ/京都市南区東九条北烏丸町1の1/電話:075・693・8588/3700円~(素泊まり、1室2人利用時の1人料金、税込み)https://www.sakuraterrace-atelier.jp

 <「街の文化漂う 秘蔵の宿」は、毎週木曜日の更新です>

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稲葉なおと

稲葉なおと

紀行作家、一級建築士

1959年、東京都生まれ。東京工業大学建築学科卒。400軒以上の名建築の宿を宿泊・取材。旅行記、小説、児童文学、写真集を発表している。現在も長編小説を雑誌「ダンスビュウ」に連載中。第10回JTB紀行文学大賞奨励賞受賞。主な著書に「匠たちの名旅館」など。近著に「モデルルームをじっくり見る人ほど『欠陥マンション』をつかみやすい」(小学館)。公式サイトでお勧めホテル、名建築の写真を多数公開中 http://www.naotoinaba.com (顔写真の撮影は寺崎誠三さん)

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