スキル・キャリアミスを見逃さない校閲の技術

パソコン入力の時代に「人の間違い」をどう見つけるか

毎日新聞校閲グループ

 毎日新聞の校閲記者たちが、プロの校閲の技と正しい文章への思いをつづる連載「ミスを見逃さない校閲の技術」の第3回は、陥りやすい「ヒューマンエラー」への対応策です。

「誤植」はなくなったはずだが

 日本語の同音・同訓語の多さに泣くのは、校閲記者や受験生だけではありません。

 1978年、キーボードによる日本語入力を史上初めて可能にしたワードプロセッサーを東芝が発表しました。「キシャがキシャした」(記者が帰社した)といった同音異義語の使い分けをどうコンピューターに学ばせるかが開発者の最大の課題であり、「辞書に学習させればいい」という発想で実現に導いたことは、よく知られています。

 それから40年。「教授」が「教援」、「減少」が「滅少」、「法廷」が「法延」にといった誤りに、校閲作業のなかでしばしば出合います。

 かつて鉛の活字を一つ一つ組んで新聞を作っていた時代にこれらの「誤植」は日常茶飯事でした。そうした「誤植」はとうになくなったはずです。しかし、ワープロの変換機能を無視したようなヒューマンエラーがいまだに起こっています。

 考えられるのが、打ち手がわざわざ分断して1字ずつ変換し、該当漢字を探すうちに、候補の中から見た目の似た別の字を選択してしまうパターンです。

 熟考なら、「じゅっこう」と入力すべきところを「じゅくこう」と、単漢字それぞれの読み通りにキーを打つと「熟考」と変換されないことがあります。そこで、わざわざ「じゅく」と「こう」を分けて打つと、「塾考」にもなってしまいます。

正しく変換できなければ「思い違い」を疑おう

 変換できなかったら、「機械(変換機能)が貧相」ではなく、自分の思い違いなのではないかと疑ってみましょう。

 校閲の中で実際に発見した事例の一部を紹介します。

  ×殻雨

  ○穀雨

 万物を潤す「穀雨(こくう)」を、「殻(から)」の雨と覚えていたためのミスでしょうか。

  ×貧欲に学ぶ

  ○貪欲に学ぶ

 「どんよく」でなく「ひんよく」と打ったのでしょうか。

  ×通天閤

  ○通天閣

 「太閤」の「閤」の字が間違って使われています。「閣」よりも「閤」の字を出す方が難しそうですね。

指が滑って戦国時代劇の世界?

 中央アジアでの占拠事件を報じる原稿に、「武将集団」という言葉が登場しました。まさか戦国時代風の集団かと思いましたが、正しくは「武装集団」でした。

 おそらく、ローマ字入力の際に余計な「y」が入って、「将」になってしまったのでしょうが、新聞紙面に出たら笑いごとでは済みません。こうした誤記では、逆に「y」が抜けた「調査結果を発砲」のようなものもあります。正解は「発表」ですね。ローマ字入力ならではのミスでしょうが、仮名入力でも、例えば濁点のつけ忘れなど、やはり打ち間違いはありえます。

 校閲記者は、ゲラを手にしたら、まず「パソコンで入力したのだから間違えていない」という先入観を排除するようにします。そして、漢字の一点一画を凝視するという校閲の原点を大切にして向き合います。結局は、「機械が間違えている」のではなく「人が間違えている」のですから。

 <「ミスを見逃さない校閲の技術」は毎週木曜日に掲載します>

    ◇    ◇

「校閲記者の目」9月1日に発売

 毎日新聞校閲グループが執筆した「校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術」(毎日新聞出版、税込み1512円)が9月1日に発売されました。書店や、アマゾンなど通信販売でお求めください。

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毎日新聞校閲グループ

毎日新聞校閲グループ

毎日新聞は東京に40人余り、大阪に30人余りの校閲記者がいる。原則として広告などを除く全紙面について記事のチェックをしており、いわば新聞の「品質管理部門」。書籍などと比べてかなり短時間で仕事をこなさなければならないのがつらいところ。朝刊の校閲作業は深夜になるため生活は「夜型」である。

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