スキル・キャリア職場のトラブルどう防ぐ?

SNSメッセージに嫌気が差したフリーランスの決断

井寄奈美 / 特定社会保険労務士

 A男さん(35)は、3カ月前に独立したフリーランスのウェブデザイナーです。元の会社は社員約10人の小さな事務所でした。在職中に担当した顧客については元の会社と業務委託契約を結び、引き続き仕事をすることになりました。

 そこで元の会社のB社長とソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上でメッセージをやりとりすることになったのですが、ある問題が起こり困ってしまいました。

元の会社の社長とSNS上でやりとり

 40代半ばのB社長もデザイナーで人脈も広く精力的に営業活動し、業績を伸ばしてきました。B社長は仕事のためなら徹夜も休日出勤もいとわない人です。フェイスブックやインスタグラムなどのSNSでの情報発信にも積極的でした。

 A男さんも社員の頃からフェイスブックに登録していましたが、公私にメリハリをつけるため社長や他の社員とはつながらないようにしていました。ただフリーランスになったため、フェイスブックとLINEでB社長と連絡を取り合うようになりました。

 SNSは、打ち合わせ時間の調整や顧客からの仕様変更の簡単な指図などの業務連絡に便利です。B社長の返信は早く、夜の時間帯でも指示を受けられます。翌日に顧客と打ち合わせがある時など、SNS上でこまめに連絡を取り合うことでスムーズに仕事を進められるなどのメリットがありました。

 フリーランスのA男さんには就業時間などの制約がないため、どんどん仕事を進めることができたのです。B社長はそうした柔軟な対応が気に入り、A男さんに新規の仕事も発注してくれるようになりました。

 そのためA男さんは元の会社からの発注で手いっぱいになりました。社員の時より収入も増え、自分で時間配分を決めながら働くスタイルに満足していました。しかしB社長からの発注が増えるにつれ、ある問題が起こりました。

深夜でもおかまいなしに届くメッセージ

 A男さんは独立したのだから、「これまで経験のない仕事にもチャレンジしたい」と考え、大学時代の友人や取引先関係者と積極的に会うようにしていました。その様子をSNSに投稿すると、それを見たB社長から「飲み会、楽しそうですね。X社の仕事の進捗(しんちょく)は大丈夫でしょうか」などのメッセージが入るようになったのです。

 A男さんは人と会っている時は、仕事に関するメールやメッセージの返信をしないようにしていました。しかしB社長からのLINEのメッセージを未読にしていると、フェイスブックにもメッセージが来ます。深夜でもおかまいなしで、返信しなくても次から次へと送られてきました。

 当初は業務連絡だけでしたが、「○○の資料がどこに置いているか教えてほしい」「Y社の担当者の名前と連絡先を教えてほしい」といったメッセージも来るようになりました。A男さんが在籍時に担当した仕事のファイルの置き場所や取引先に関することなど、本来は社内で解決する問題でした。B社長は深夜でも事務所で仕事をしていたため、困ったことがあるとA男さんに連絡していたのです。

 A男さんは、B社長からの発注を多く受けているとはいえ、B社長のためだけに時間を使うことはできません。そこで仕事のやり方を改めることにしました。午後10時以降はメッセージのやりとりをしないこと、日曜日は家族との時間があるため返信ができない場合があることをB社長に伝えました。

 B社長からは「深夜や休日も関係なく柔軟に対応してくれたからやりやすかったけど、それならうちの社員と変わらないね」と言われました。その後、B社長からの発注は少なくなったため、自分で開拓した新しい顧客の仕事に取り組み始めています。

「ノー!」と言えない相手に配慮を

 フリーランスのA男さんとB社長は、雇用関係ではなく取引関係にあります。受注側のA男さんは、発注側のB社長からのSNSでの連絡をむげにはしにくい面があります。ただ取引関係であれば、いざとなれば関係の改善を求めたり、断ったりすることもできます。実際、A男さんはそうしました。

 しかし雇用関係にある社長と社員、上司と部下の間でも同じようなことが起こる可能性があります。SNSはスマートフォンがあれば気軽にアクセスでき、いつでもどこでも他人とつながる便利なツールです。

 自分はつながる環境でも、相手がどのような状況かはわかりません。その状況で一方的にメッセージを送りつけることは、相手に返信を強要することになりかねません。特に相手が部下や発注先の社員など、簡単に「ノー!」と言えない立場の人の場合は注意が必要です。

 「便利だから」「すぐに答えを知りたいから」と自分の都合のメッセージでないかを、送る前に考えましょう。そうしたメッセージのやりとりで相手に精神的な負担を与えたり、相手の時間を奪ったりしている意識を持って利用することが大切です。

 <「職場のトラブルどう防ぐ?」は原則金曜日に掲載します>

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井寄奈美

井寄奈美

特定社会保険労務士

大阪市出身。2015年、関西大学大学院法学研究科博士前期課程修了。現在、大阪大学大学院法学研究科博士後期課程在籍中(専攻:労働法)。01年、社会保険労務士資格を取得。会計事務所勤務などを経て06年4月独立開業。井寄事務所(大阪市中央区)代表。著書に『トラブルにならない 小さな会社の女性社員を雇うルール』(日本実業出版社)など。http://www.sr-iyori.com/

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