思い邪なし

思い邪なし8 新発見の手紙(五)

北康利 / 作家

序章 はじめにまず“思い”ありき

新発見の手紙(五)

 <大元気にて勤ム致して居りますので御休心の程>と手紙の冒頭に書いているが、本当は問題山積だった。

 手紙の最後で<新会社を作らない事に致しますと、会社に残る事になります>と、ぽろっと弱音を吐いているのはそのせいだ。

 たとえば<新会社の建設図面を作る事にして居ります>と威勢のいいことを言っているが、実際にはとても新会社の工場を新設する資金など集まらなかった。

 彼はとにかく両親に心配をかけたくなかった。手紙の中にお金の話が頻出するのは、彼が金銭に卑しかったか…

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北康利

北康利

作家

1960年生まれ。東大法学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長などを経て、2008年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。著書に「白洲次郎 占領を背負った男」、「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」など。