ケビン・スペイシーさんが主演し、大ヒットしたネットフリックスオリジナルドラマ「ハウスオブカード」
ケビン・スペイシーさんが主演し、大ヒットしたネットフリックスオリジナルドラマ「ハウスオブカード」

社会・カルチャー週末シネマ

資金力で映画界を席巻する映像配信サービスの衝撃

勝田友巳 / 毎日新聞学芸部長

映像配信は映画を変える(上)

 映画誕生以来の常識を覆す“事件”が起きている。映像配信サービスの台頭で、配信でだけ公開される映画が登場し、「映画は映画館で公開するもの」ではなくなりつつあるのだ。インターネット上にさまざまな映像を配信するサービスは、独自作品に工夫を凝らす中で多額の製作費を投入し、重厚な映像と物語で契約者獲得にしのぎを削っている。映像配信サービスの競争と進化は、映画そのものを変えるかもしれない。

ネットフリックスとアマゾンの台頭

 米の映像配信大手のネットフリックスと、ネット小売り大手で映像配信も手がけるアマゾンが、相次いで日本に上陸した。世界中に契約者を有する規模の大きさと豊富な資金力を背景に、積極的に映画界に進出している。

ネットフリックスのオリジナルドラマの数々
ネットフリックスのオリジナルドラマの数々

 両社とも、ドラマから番組製作を開始。ネットフリックスは2013年、オリジナルのドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」が、ゴールデン・グローブ賞、エミー賞などを受賞。配信番組初の受賞となり、注目を集めた。

 15年から映画に進出、ドキュメンタリーから劇映画へと手を広げる。今年2月のアカデミー賞では、ネットフリックス製作の「ホワイト・ヘルメット」が短編ドキュメンタリー賞を受賞。同5月のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門には、ネットフリックスが配信権を持った「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」「オクジャ」の2本が出品された。

ネットフリックスが配信権を持つ「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された
ネットフリックスが配信権を持つ「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された

 一方アマゾンは10年に自前の製作会社を設立し、15年の自社製作ドラマ「トランスペアレント」がエミー賞を受賞した。同年にスパイク・リー監督の「Chi-raq」配給を手がけて映画界に参入した。以降、自社のサイトで脚本を募り、優秀作の製作を手がけるほか、映画祭などの見本市で劇場配給権を意欲的に獲得している。

 アマゾンが権利を取得して配給した「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は、配信会社が関わる映画としては初めて、アカデミー賞の主演男優賞、脚本賞を受賞した。アマゾンは今年のカンヌ映画祭にも「ワンダーストラック」を出品している。

 いずれの映画も見ごたえのある力作ぞろい。スター俳優と監督をそろえ、内容も挑戦的、意欲的。米アカデミー賞や国際映画祭の候補や受賞が相次ぐ。背景には、興行収入で製作費を回収するという従来の映画とは異なったビジネスモデルがある。

「興行成績」から解放された映像配信サービス

 映画会社は、劇場公開による興収で製作費回収を図ろうとする。できるだけ多くの観客を集め、興行成績上位に食い込むことを目指す。しかし世界中で劇場公開されるハリウッド大作をのぞけば、ほとんどの映画は製作された国以外で上映されることは少ない。限られた市場で観客を奪い合うことになる。

映画は長く庶民の娯楽の王様だった=東京・浅草六区の映画館街(昭和14年)
映画は長く庶民の娯楽の王様だった=東京・浅草六区の映画館街(昭和14年)

 日本なら1年に劇場公開される映画は年間1000本以上あるが、年間観客数は1億7000万人程度。ヒットするのはほんの一握りで、ほとんどが“討ち死に”である。しかし番組ごとの課金ではなく、定額で好きなだけ視聴できる配信サービスでは、興行成績という概念が意味を持たないのだ。

 ネットフリックスは、契約視聴者からの契約料が経営の柱だ。画質によって月額650円から1450円で、好きなだけ視聴できる。映画でもドラマでも、著作権を持って多面的な権利ビジネスを展開するより、作品のSVOD(Subscription Video on Demand、契約配信)の独占権を持った作品を幅広くそろえ、多様な年代、嗜好(しこう)の視聴者獲得を目指すのである。

 そのために重視するのは“オリジナル”といってもさまざまで、「マイヤーウィッツ家の人々」のように、全世界でネットフリックス配信でしか見られない作品から、「カンフーパンダ3」のように、海外では劇場公開がされていても日本では配信だけという映画もある。アニメ「BLAME!」は、日本での劇場公開と配信が同時スタートだった。いずれにせよ、「ネットフリックスでしか見られない」が売り物だ。

 ネット小売りのアマゾンにとって配信は数あるサービスの一つで、年会費3900円か月会費400円のプライム会員になれば見放題だ。ネットフリックスと違い、劇場公開を先行させて映像配信、という順番だ。劇場公開で作品の知名度を上げれば配信に誘導できるし、DVD販売などの後押しにもなる。それでも、アマゾンでしか見られないオリジナルを、多彩にそろえようとするのは同様だ。性別も年齢もバラバラな全く違う視聴者がおり、一つのカテゴリーに集中するのは得策ではないのだ。

アマゾンプライムビデオの作品群
アマゾンプライムビデオの作品群

多くの独自作品を投入し、多様な年代と好みに対応

 いずれも、配信した映画が興行成績1位になる必要はなく、むしろ多くの作品で少しずつでも熱心な視聴者を獲得したい。となれば、誰にでも分かりやすい作品でなくてもよいから、出資者や表現に気を使うことが少なくなる。作り手の創作の自由度が増して、既存の映画会社が避けるような地味な素材や物議を醸しそうなテーマにも積極的に取り組み、思い切った表現が可能になる。

 しかも、市場は一気に世界に広がる。ネットフリックスの契約視聴者は、190カ国に1億900万人という。映画館のない地方でも、ネット接続環境さえあれば観客を見つけられる。視聴者にとっては、たくさん見るほど1本あたりの単価は安くなる。配信事業者は視聴動向のデータを集積し、細かく分析し、視聴者の求めるものを探っている。

 <次回「映像配信サービスは「映画文化」の破壊者か守護神か」>

週末シネマ

経済プレミア・トップページはこちら

苦悩なきアメコミヒロイン「ワンダーウーマン」の強さ

トム・クルーズ“ミイラ再生”リメークは壮大B級作だ

アカデミー賞「セールスマン」が描くイラン社会の深層

ヒーローを超えた“生身のローガン”最後の闘い

「人生タクシー」で教わるイラン人の勇気とユーモア

勝田友巳

勝田友巳

毎日新聞学芸部長

1965年、茨城県出身。北海道大文学部卒。90年毎日新聞に入社し、松本支局、長野支局などを経て、東京本社学芸部。映画を担当して15年、新作映画を追いかける一方、カンヌ、ベルリンなど国際映画祭や撮影現場を訪ね、映画人にも話を聞いて回る日々。毎日新聞紙面で「京都カツドウ屋60年 馬場正男と撮影所」「奇跡 軌跡 毎日映コン70年」の、2本の映画史ものを連載中。

イチ押しコラム

知ってトクするモバイルライフ
手のひらにしっかり収まる「アクオスR2コンパクト」。発売は1月

日本人の好みに応えたシャープ・アクオス小型スマホ

 シャープが、小型スマホの「アクオスR2コンパクト」を開発。ソフトバンクから2019年1月に発売されるほか、SIMフリーモデルとし…

ニッポン金融ウラの裏

NISAに最初の「5年満期」更新しないと非課税消滅

 少額投資非課税制度(NISA)が初めての期間満了を迎える。一定の手続きによって、さらに5年間の非課税期間延長となるが、いま、証券…

藻谷浩介の世界「来た・見た・考えた」
地下化されたワルシャワ中央駅上の広場。スターリン建築と民主化後のビルが林立する(写真は筆者撮影)

西に移動させられた国ポーランド 首都ワルシャワの今

 ◇ポーランド・ワルシャワ編(1) 36年前、高校の文化祭のディベートで、「史上最大の英雄は誰か」というお題に、「ポーランドで共産…

メディア万華鏡
週刊文春11月1日号

メディア騒がすドタキャン沢田研二の「格好いい老後」

 騒ぎ過ぎじゃないか。取り上げ方の息もなんだか長い。ジュリーこと沢田研二さん(70)が、10月17日にさいたまスーパーアリーナで予…

職場のトラブルどう防ぐ?

「部下の夫から連日クレーム」42歳女性上司の困惑

 A美さん(42)は、夫が院長を務めるクリニックの事務長を務めています。2カ月前から経理担当として働いているB子さん(33)の夫か…