思い邪なし

思い邪なし13 平成の“経営の神様”(五)

北康利 / 作家

序章 はじめにまず“思い”ありき

平成の“経営の神様”(五)

 “アメーバ”とは、稲盛が編み出した社内組織のことであり、京セラの強さの秘密とされる。

 会社全体を工程別、製品群別にいくつかの小さな組織に分け、それぞれが一つの中小企業のように経営を任され、独立採算で運営する。

 自己裁量権を持つが、同時に利益責任を負うこの小集団は、会社の指示によって運営されると言うより、むしろ現場の判断によって形を自在に変えていく。

 ひとつひとつが環境の変化に適応して、発生したりくっついたり離れたり消滅したりするため、“アメーバ”と名付けられるようになった。

 方針が決まったら一糸乱れぬ行動で「ベクトルを合わせる」のが京セラの基本だが、目標とするものは同じでも、そこにたどりつく方法にそれぞれの創意工夫が求められ、融通無碍(ゆうずうむげ)なのだ。

 属しているアメーバのメンバー全員が、目標を把握し、その達成に向けてそれぞれの立場で努力することで、個人としての能力も向上し、生きがいを持って働ける。

 だが彼らが思い思いに動いてしまっては烏合(うごう)の衆になってしまう。彼らがフィロソフィをしっかりと共有化しているからこそ、こうした運営が可能になった。

朝礼でアメーバを表彰する稲盛氏
朝礼でアメーバを表彰する稲盛氏

 かつて松下幸之助は事業部制を導入して注目されたが、稲盛和夫はこの事業部制を参考にしつつも、さらに進化させたオリジナルの社内制度を編み出したのだ。

 「潜在意識にまで透徹する強い願望を持ち続ける」

 というのもフィロソフィの一つである。

 高い目標を達成するには、まず「こうありたい」という強い、持続した願望をもつことが必要だと説く。

 純粋で強い願望を寝ても覚めても、繰り返し繰り返し考え抜けば、それは潜在意識にまでしみ通っていく。

 このような状態になったとき、潜在意識が強烈な力を発揮し、その願望を実現する方向へと向かわせてくれるというわけだ。

 先述した「ベクトルを合わせる」というのもフィロソフィの重要な項目だ。

 集団が最高のパーフォーマンスを示すのは、全員の方向性(ベクトル)をあわせることだと稲盛は考えた。フィロソフィもそのための軸だったわけだが、最近はこうした考え方に異論も多い。

 「会社人間になってはいけません。その組織以外でも通用するようなポータブルキャリアを身につけるように」

 大学でさえそう教える時代だ。

 だが強烈な“会社愛”を持って働くことを否定する必要がどこにあるだろう?

 スポーツにも個人競技と団体競技があるように、多くの仲間と同じ目標に向かっていく喜びもある。

 むしろ日本人は、団体でこそ力を発揮する国民性を持っている気がする。

 <京セラを創業した稲盛和夫名誉会長の半生記「思い邪(よこしま)なし」を、作家の北康利さんの執筆でお届けします。毎日新聞経済面との連動企画です。次回「思い邪なし14 平成の“経営の神様”(六)」>

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北康利

北康利

作家

1960年生まれ。東大法学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長などを経て、2008年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。著書に「白洲次郎 占領を背負った男」、「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」など。

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