校閲記者の七つ道具
校閲記者の七つ道具

スキル・キャリアミスを見逃さない校閲の技術

確認したはずなのに「名前」を間違ってしまうのはなぜ

毎日新聞校閲グループ

 名刺を受け取っていて名前も確認しているはずなのに、字を間違えて賀状やメールを送ってしまい、ひんしゅくを買ったような経験は多くの方がお持ちのことと思います。日本人の名字の数は10万以上といわれますが、まずは正しく表記することが信頼関係の第一歩です。

 新聞では日々膨大な数の人名が登場しており、誤りの例は枚挙にいとまがありません。

・姓  仙谷-仙石   冨長-冨永   島沢-島津   真狩-真刈

    丸畑-九畑   松浦-杉浦   河東-川東

・名  彩香-彩夏   将太-翔太   留依-留衣   庄市-庄一

    哲郎-鉄郎   直仁-直人   武雅-武雄   恵都子-恵津子

間違いやすい「仙谷」と「仙石」

 いずれも、読み方が同じだったり、どちらか1字が合っていたりします。誤ってしまう理由には次のようなものが考えられます。

・多数派に流される。「せんごく」とくれば「仙石」を連想してしまい、確認せず打ってしまうが、「仙谷」だった。さらに1字目が合っていると安心してしまう。

毎日新聞校閲グループがチェックした「経済プレミア」編集部の原稿
毎日新聞校閲グループがチェックした「経済プレミア」編集部の原稿

・ほかの要素に気を取られる。「とみなが」の「とみ」の字体が「富」でなく「冨」というところに気を取られて「冨永」と打って安心し、多数派に流されて「永」でなく「長」というところに気づかない。

・字の形が似ていると紛らわしく、見誤ったまま書いてしまう。網と綱、丸と九など。

 著名人と違って、一般の人の名前はいったん筆者の手元を離れてしまうと誤りを確認することが難しくなります。単純な誤りパターンが多いことを自覚し、まずメモを取る際に誤らないこと、さらに誤りなく打つこと。そして一文字一文字確認していきましょう。

2人1組で行う「読み合わせ」

 新聞記者は名簿のように数が多い場合は「読み合わせ」をすることもあります。2人1組になって、一方が入力し終えたゲラを声に出して読み、一方が元資料を見ながら確かめるのです。

 読み合わせは、「佐藤」を「にんべんひだり(人偏、左)に、さがりふじ(下がり藤)」のように、文字の分解をしたり音読みを加えたり、有名な固有名詞に当てはめたりと、さまざまな方法で一文字一文字誤りなく伝えるようにします。

 ある校閲記者が「肇」の字を「ハナ肇のハジメ」と説明し、大先輩に一喝されたことがありました。

 「それはチョウコクのチョウ、国を始めるという意味だ。今どきの若いもんは知らんのか」

 確かに肇国の「ちょう」ではありますが、日常語とはいえず、その記者も結局は「ハナ肇のハジメ」という説明で通したといいます。しかし、コメディアンやバンドメンバーとして活躍したハナ肇さんも死去して20年以上たちました。この説明が通じなくなる日も遠くない--と、寂しげに話しています。

 <この連載は、書籍「校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術」(毎日新聞校閲グループ)の内容の一部をウェブ用に編集し直したものです。毎週木曜日に掲載します>

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ミスを見逃さない校閲の技術

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「うまか棒」と「うまい棒」を見分けるのが校閲の極意

芸能人「入籍しました」の新聞表記は「婚姻届を出す」

校閲記者の本音の話「間違いはこうやって見つける」

毎日新聞校閲グループ

毎日新聞校閲グループ

毎日新聞は東京に40人余り、大阪に30人余りの校閲記者がいる。原則として広告などを除く全紙面について記事のチェックをしており、いわば新聞の「品質管理部門」。書籍などと比べてかなり短時間で仕事をこなさなければならないのがつらいところ。朝刊の校閲作業は深夜になるため生活は「夜型」である。

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