トヨタの燃料電池車「MIRAI」=2015年12月18日、徳野仁子撮影
トヨタの燃料電池車「MIRAI」=2015年12月18日、徳野仁子撮影

IT・テクノロジー知っておきたい電気自動車

燃料電池車「MIRAI」に未来はこないのか!?

村沢義久 / 環境経営コンサルタント

 トヨタ自動車が水素を用いる燃料電池車(FCV)の「MIRAI」を発売した時、米テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は「フューエルセル(燃料電池)はフールセル(バカ電池)」と切って捨てた。筆者も燃料電池車は普及しないと言い続けている。

 そもそも、水素についてはいくつかの大きな誤解がある。トヨタのサイトには、「宇宙でいちばん豊富といわれる、クリーンエネルギー、水素」という表現がある。しかし、地球上では、「豊富」も「クリーン」も「エネルギー」も間違いだ。

 確かに、水素は地球上でも豊富ではある(一番ではない)が、そのほとんどが、水などの化合物の形であり、エネルギー源として使える単体の水素(H2)はほとんどない。従って、水素は水(H2O)の電気分解、あるいは、天然ガス(メタンガス=CH4)の改質などで取得する必要があるが、そのためにはエネルギーが必要。つまり、水素は「エネルギー」そのものではなく、エネルギーを運ぶ媒体でしかない。

「水素はクリーン」の誤解

 最後に、「クリーン」も怪しい。水素は、使用時におけるCO2の排出はゼロだが、天然ガスの改質などで水素を得るプロセスでCO2が排出されてしまうからだ。

 また、燃料電池車が利便性を発揮するための水素ステーションの整備のペースは極めて遅い。燃料電池車を後押しする政府は「2015年末までに100カ所」と言っていたが、16年9月の段階で92カ所しかない。

 アメリカはもっと絶望的だ。現在、水素ステーションはたった二十数カ所。トヨタ関係者は、「広いアメリカでは航続距離の短い電気自動車ではカバーできない」と言っていたが、実際には、アメリカのような広い国の隅々にまで水素ステーションを設置するのは難しい。燃料電池車が「究極のエコカー」という考え方はやめた方が良さそうだ。

トヨタがEVへの本格参入を表明

 トヨタ自動車が、電気自動車への本格参入を明確にした。17年10月に開幕した「東京モーターショー2017」でAI(人工知能)を搭載した電気自動車の「トヨタコンセプト愛i」を発表。20年代前半には、航続距離が大幅に伸びる「全固体電池」の実用化方針を打ち出した。電気自動車時代でも世界のトップメーカーであり続ける意欲を鮮明に示した。

 トヨタは16年11月に豊田章男社長自らが先頭に立ってEV開発に着手する方針を鮮明にし、社長の直轄組織「EV事業企画室」発足を発表。ついに重い腰を上げた。その後、「EV事業企画室」は、「先進技術開発カンパニー先行開発推進部」に組み入れられ、事業部内の組織へと改められた。

 しかし、トヨタは決して電気自動車に無関心だったわけではない。トヨタは、10年5月にテスラと資本・業務提携し、同社に5000万ドル(当時のレートで約45億円)を出資。その2年後の12年には両社は共同開発によるSUV「RAV4 EV」(第2世代)を米国で販売した。筆者は理想的なコンビと考え、大いに期待したのだが売り上げは伸びず、すでに生産を終了した。

うまくいかなかったテスラとの提携

 結局、トヨタは、16年末までにテスラの保有株を全て売却し、提携関係を解消している。

 トヨタは、17年9月、マツダ、デンソーの3社で電気自動車開発のための新会社を設立したと発表。すでに、トヨタとマツダが8月に資本提携し、電気自動車の共同開発などで合意している。他のメーカーも加わる予定だ。

 「世界のトヨタ」が本気になれば、性能的には電気自動車でも世界一になれるだろう。後は、世界に誇るハイブリッド車、燃料電池車を捨てる勇気を持てるかどうかだ。「究極のエコカー」を目指すトヨタは「究極のジレンマ」に直面する。

 <「知っておきたい電気自動車」は毎週月曜日に掲載します>

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村沢義久

村沢義久

環境経営コンサルタント

1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。現在の活動の中心は太陽光発電と電気自動車の推進。

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