割れたガラスの破片同士(右)をくっつけて自己修復したガラス(左)=東京大学相田研究室提供
割れたガラスの破片同士(右)をくっつけて自己修復したガラス(左)=東京大学相田研究室提供

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ベネチアガラス職人も驚く「割れてもくっつくガラス」

エコノミスト編集部

 AIや自動運転だけではない。あっと驚く新技術が次々と登場している。2018年、注目の技術を13分野にわたって紹介した週刊エコノミスト1月23日号の巻頭特集「市場を動かす すごい技術」から「割れてもくっつくガラスの技術」をお届けする。

破片を押しつけると修復可能

 「スマホを落としてガラスが割れてしまった」。でも心配ご無用。割れた破片と破片を押しつけると元通りに--。

 こんな話が近い将来、実現するかもしれない。東京大学の相田卓三教授(超分子化学)らのグループは、割れても破片同士を数十秒間押しつけると、くっついて修復する特殊なガラス素材を開発した。

 一般にガラスといえば、窓ガラスやコップの素材などを思い出すが、これらはケイ素などを材料とする「無機ガラス」を指すことが多い。

 これに対し、いわゆるプラスチック製レンズやコップなど樹脂製の素材は「有機ガラス」と呼ばれる。軽くて丈夫で加工しやすく、比較的安いため、食器棚のガラス部分など家具の一部に使われるケースも増えている。また水族館の大型水槽では高い水圧に耐えるためにアクリル樹脂を張り合わせたものが使用されている。

医療物質の研究中に見つかる

 相田教授らが開発したガラスは有機ガラスで、「ポリエーテルチオ尿素」という高分子材料で作られている。この材料で作ったガラスは、分子と分子が鎖のように絡み合っている。面ファスナー(マジックテープ)による接着のような弱い結合である「水素結合」によって、もろくはなく粘り強いものになっている。20~25度の常温でも人の力で押さえつければ「自己修復」できる。

マンガ=いまいずみひろみ
マンガ=いまいずみひろみ

 これまでゴムのような軟らかい物質では、ちぎれるなどしても、その部分同士を押しつけることで、分子同士が絡み合っていく現象が起き、復元できる素材はあった。ただ、ガラスのような硬い物質では、最低でも120度程度の高温に加熱しなければ復元は不可能だった。その点で今回の発見は画期的だ。ただし、無機ガラスで自己修復する物質は今のところ見つかっていない。

 今回のガラスは、新薬開発など病気の治療に役立てる物質の研究中に偶然見つかった。性質の異なるたんぱく質同士を張り合わせて融合させる「分子のり」をつくる過程で生成されたが、従来にない不思議な性質を示した。調べ始めると、硬くさらさらとした表面なのに、破損した面同士を押しつけるとくっつくことが分かったという。

経年劣化によるひびも修復

 自己修復してリサイクルできる物質探しは最近の世界的な潮流だという。修復可能なガラスは、破損しても廃棄せずに半永久的に使い続けることができる。スマホやパソコン、メガネなどさまざま用途に利用の可能性が広がる。イタリアのベネチアガラスの工芸作家からも試しに使ってみたいと連絡があった。実用化に向けては、酷暑や極寒、水中などに対する耐性のほか、つないだ部分の傷を完全にきれいにするなどの課題があるという。研究は始まったばかりだ。

 用途はリサイクルだけではない。相田教授らのグループの柳沢佑・学術支援専門職員によると、機械や輸送機器などで使い続けることによって疲労などが起きる部位に、負担がかかってひびが入っても修復できる材料として使うことも可能だという。柳沢さんは「振動がかかる部位だと、ひびが入ることもあるが、このガラスの材料では起きにくい。寿命がこれまでの材料より2倍、3倍となれば、多少高価でも使われるのではないか」と話している。

    ◇    ◇

 この記事は、週刊エコノミスト1月23日号の巻頭特集「市場を動かす すごい技術」をウェブ用に編集したものです。連載「週刊エコノミスト・トップストーリー」は原則、毎週水曜日に掲載します。

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<週刊エコノミスト1月23日号>

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藤枝克治編集長率いる経済分野を中心として取材、編集するチーム。経済だけでなく社会、外交も含め幅広く取材する記者の集団であり、各界の専門家にコラムや情報提供を依頼する編集者の集団でもある。

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