思い邪なし

思い邪なし76 退社を決意した日(二)

北康利 / 作家

第二章 京セラ設立

退社を決意した日(二)

 稲盛和夫という人材の真の価値が分かっていないその新任の技術部長は、稲盛が辞めると言い出しても平然としていたが、社長に報告したところ烈火の如(ごと)くに怒られた。

 「バカもん! 稲盛君を辞めさせてどうする!」

 正直、稲盛という若者がそれほどこの会社で重用されているとは知らなかった。ここで初めて彼は、自分のしたことの愚かさに気づくのである。

 社長は必死に慰留を始めた。銀行管理下に置かれている松風工業の社長は、すでに創業者一族ではない。第一…

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北康利

北康利

作家

1960年生まれ。東大法学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長などを経て、2008年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。著書に「白洲次郎 占領を背負った男」、「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」など。