青空が広がる北京市内。習近平指導部が進める環境対策の「成果」だ=2018年2月12日、赤間清広撮影
青空が広がる北京市内。習近平指導部が進める環境対策の「成果」だ=2018年2月12日、赤間清広撮影

グローバル海外特派員リポート

強引な大気浄化作戦の裏にある習近平政権の“新方針”

赤間清広 / 毎日新聞中国総局特派員(北京)

 深い霧がかかったような暗い街並み。道行く人は皆、丈夫なマスクをつけ、毎日スマートフォンで大気の汚染状況をチェックする--。これが大気汚染が深刻な北京の日常だ。

 特に気温が氷点下10度を下回ることも珍しくない冬は、「暖気」と呼ばれる石炭などを使う集中暖房が一斉に始まるため、汚染に拍車がかかる。大気重汚染を指す「赤色警告」が発令され、小中学校がすべて休校となることも度々だ。

 「北京の冬」と聞いて日本の読者が真っ先に思い浮かべるのも、このような寒々した風景ではないだろうか。

「赤色警報」が出た北京市内。数十メートル先の建物がかすむほど街中に汚染物質が充満する=2016年12月16日、赤間清広撮影
「赤色警報」が出た北京市内。数十メートル先の建物がかすむほど街中に汚染物質が充満する=2016年12月16日、赤間清広撮影

状況が一変した北京の空

 しかし、この冬は状況が一変した。例年、冬の北京は大気汚染の影響で重苦しい曇天が続くが、今年は連日、抜けるような青空が広がっている。

 中国環境保護省によると、北京では昨年10~12月期の微小粒子状物質「PM2・5」の平均濃度が前年同期より5割以上も減った。日本に比べればまだまだ空気の汚染度は高いが、北京在住者から見れば「劇的改善」と言っていい。

 青い空を守る戦いに勝利する--。

 「激変」のきっかけは昨年10月の中国共産党大会で習近平国家主席が発したこの一言だった。習氏は「際立った環境問題の解決に力を入れる」と宣言し、全国で大気汚染対策が一斉に動き始めた。特にお膝元である北京の「浄化作戦」は強権的ともいえるほどだ。

閉鎖された工場。使われていた機械が屋外に放置されていた=中国北京市郊外で2018年1月17日、赤間清広撮影
閉鎖された工場。使われていた機械が屋外に放置されていた=中国北京市郊外で2018年1月17日、赤間清広撮影

当局が産業や住民の「選別」を強化

 「目の前にある建物は金属工場。その脇にはスーパーがあった。でも、ここ数カ月でみんな閉めてしまったよ」

 北京市郊外では昨年から中小の工場が相次ぎ、閉鎖を余儀なくされている。環境汚染や交通渋滞など都市人口の急増に伴う弊害を取り除くため、当局が産業や住民の「選別」を強化したためだ。

 工場経営者の男性は昨年秋、当局から「この工場は環境基準に違反している」と操業停止を命じられた。国有地を借りて操業していたが、閉鎖を命じられた翌日に当局が「土地を返してもらう」と重機で乗り込み、建物内にあった机や書類ごと一帯を更地にしていったという。

 周辺の工場も状況は同じだ。工場労働者が住んでいたと思われる家々をまわり玄関の扉をたたいたが、大半で人の気配はなかった。立ち退きであいた土地の一部は緑地となる計画だ。

一部工場は取り壊され、更地の状態に。ごみも散乱していた=中国北京市郊外で2018年1月17日、赤間清広撮影
一部工場は取り壊され、更地の状態に。ごみも散乱していた=中国北京市郊外で2018年1月17日、赤間清広撮影

 中央政府は大気を汚す石炭の使用も厳しく制限し、環境に優しい天然ガスへの切り替えを進める。しかし、旧式の暖房設備はほとんどが石炭用。北京に隣接する河北省曲陽県の小学校では昨年末、石炭ストーブが撤去され、子供たちが寒さに震えながら授業を受ける光景が大手メディアで報じられた。批判を受け当局はすぐに代替暖房を入れたものの、各家庭に天然ガスの暖房設備は行き渡っていない。操業に必要な天然ガスを確保できず、開店休業状態の工場も頻発している。

経済の「質」重視に転換

 なぜ、ここまで強引に環境対策を進めるのか。背景には中国経済の方向性をめぐる大きなうねりがある。

 中国は「先富論」(先に豊かになれる地域から豊かになる)を唱え「改革・開放」を推し進めたトウ小平氏以来、高い経済成長の実現を政策の主眼に置いてきた。

 しかし、党の「核心」と呼ばれ、トウ小平氏に迫る権力基盤を手中に収めようとする習氏は成長偏重の従来路線を改め、経済の「質」を重視する方針を打ち出した。市民の関心が高い「環境」は習路線の試金石とも言える存在だ。各地方政府は「成果」をアピールしようと焦り、強引な環境対策の導入を招いている。

 企業や住民の犠牲をいとわず実現した北京の青空は、新しい時代へ踏み出そうとする中国のシンボルでもあると同時に、上意下達型の中国政治の問題点をも浮き彫りにしている。

 <「海外特派員リポート」は原則、土曜日に更新します>

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赤間清広

赤間清広

毎日新聞中国総局特派員(北京)

1974年、宮城県生まれ。宮城県の地元紙記者を経て2004年に毎日新聞社に入社。気仙沼通信部、仙台支局を経て06年から東京本社経済部。経済部では財務省、日銀、財界などを担当した。16年4月から現職。中国経済の動きを追いかけている。

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