三菱マテリアルの記者会見。手前は竹内章社長=2017年12月28日、丸山博撮影
三菱マテリアルの記者会見。手前は竹内章社長=2017年12月28日、丸山博撮影

政治・経済日産、神戸製鋼は何を間違えたのか

不正発覚で「会社が破綻」と考えた三菱電線社長の悲哀

今沢真 / 毎日新聞経済プレミア編集長兼論説委員

企業不正・同時多発の裏側(5)

 12月28日に公表された三菱電線工業の品質検査データ不正の「中間調査報告」には、不正の概要を知った社長が「会社が破綻する」と思ったという衝撃の事実が書かれていた。この社長は不正公表後に辞任している。不正発覚の経緯から、親会社への報告までの経緯をたどってみよう。

親会社指示で行った監査で不正が判明

 三菱電線の箕島製作所(和歌山県有田市)で手広く行われていた品質検査データの改ざんが社内監査にひっかかったのは、16年12月のことだった。その時期に親会社、三菱マテリアルの指示で三菱電線の監査室が品質監査を行った。

 その監査で、「パッキン」と呼ばれるゴム素材のシール製品で、寸法の規格値を逸脱した製品が顧客の承認を得ずに「合格品」になり、検査データが改ざんされ出荷されていたことが確認された。

 三菱電線の監査室は翌17年1月、検査データ改ざんの事実を社長と経営会議に報告し、社長を本部長とする社内対策本部が設置された。検査担当者で共有してきた「改ざんリスト」の存在が明らかになり、過去2年間でリストに掲載された製品を570件製造していたことがわかった。こうした実態が3月初めに社長に報告された。

記者会見に臨む三菱マテリアルの竹内章社長(中央)。右は三菱電線工業の村田博昭前社長=2017年11月24日、西本勝撮影
記者会見に臨む三菱マテリアルの竹内章社長(中央)。右は三菱電線工業の村田博昭前社長=2017年11月24日、西本勝撮影

銅製ワイヤでもデータ改ざん

 一方、三菱電線では、シール製品とは別に、携帯電話やパソコンといった電子部品のモーターに巻かれる「メクセル」と呼ばれる銅製のワイヤでも、規格に合わない製品を出荷していた。

 シール製品の不正が社内で発覚した後、メクセル事業室は、規格に合わない「メクセル」の出荷を一時とりやめた。すると、破棄しなければならない製品の数が多く、収益に大きな影響が出ることがわかった。それを受け、メクセル事業室は規格に合わない製品の出荷を再開したのである。どの部署も収益第一で品質は二の次だった。

 メクセル事業室はこの後、規格に合わない検査値が出た場合、エクセルの関数処理で自動的に数値が改ざんされるよう設定していた。メーカーとして考えられない行為がまん延していた。

元社長の求めでようやく出荷停止

 10月になってようやく問題の全体像を把握した中間報告が社長に出された。品質改善には金型の試作や修正が必要だが、対象の製品が570件と多数あるため、すべて改善するには3年以上かかるとのことだった。

三菱電線工業箕島製作所=和歌山県有田市で2017年11月23日、三村政司撮影
三菱電線工業箕島製作所=和歌山県有田市で2017年11月23日、三村政司撮影

 三菱電線の社長は、数多くの顧客に一斉に不正を報告すると、顧客の監査要求などで工場が対応できなくなると思った。納品もできなくなり、会社に損害賠償責任が生じ、会社の破綻につながると考えた。このため、顧客に一斉に不正を報告することはせず、順次報告しようとした。社長は「ソフトランディングの解決を目指していた」と調査委員会に述べたが、外部に隠して内々に処理しようとしたことにほかならない。

 社長は10月19日、中間報告と処理方針を元社長である相談役に報告した。相談役は一晩考えた末、問題の製品の出荷を停止し、親会社の三菱マテリアルに報告するよう伝えた。これを受け社長は10月23日に問題のある製品の出荷を停止し、三菱マテリアルに報告するとともに、顧客への説明を開始した。

 16年12月に監査室が不正を見つけてから10カ月、社長ら経営陣に不正の報告が上がってから9カ月がたっていた。

 以上が、三菱電線の不正に関する中間報告書の驚くべき内容だった。

    ◇    ◇

 この連載は書籍「日産、神戸製鋼は何を間違えたのか」(毎日新聞出版)をウェブ用に編集し直したものです。次回「三菱伸銅で行われた「丸目処理」と取締役3人の辞任

「日産、神戸製鋼は何を間違えたのか」を出版

 日産自動車、神戸製鋼所、スバル、三菱マテリアル、東レと相次いで発覚した不正を、経済プレミアは詳しく報告してきました。記事に大幅に加筆して2月24日「日産、神戸製鋼は何を間違えたのか」(毎日新聞出版、税込み1080円)を出版しました。筆者は今沢真・経済プレミア編集長兼論説委員です。書店やアマゾンなど通信販売でお求めください。

日産、神戸製鋼は何を間違えたのか」目次

第1章 発覚! 日産の無資格検査

第2章 社長謝罪後も続いていた不正

第3章 日産の“失われなかった20年”

第4章 無資格検査の“最終報告”

第5章 カルロス・ゴーン会長はどこに?

第6章 スバルの無資格検査と終わらない混乱

第7章 神戸製鋼の品質データ不正

第8章 データ改ざんの背後に「トクサイ悪用」?

第9章 ネット投稿をきっかけに不正を公表した東レ

第10章 三菱マテリアル子会社3社の品質データ不正

終章 三菱マテリアル報告書に書かれた衝撃の中身

    ◇    ◇

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今沢真

今沢真

毎日新聞経済プレミア編集長兼論説委員

1959年東京都生まれ。早稲田大法卒。83年毎日新聞社に入社。静岡支局、東京本社整理本部を経て89年経済部。税・財政や金融政策を担当、銀行、メーカー、流通業を取材する。2013年から論説委員として毎日新聞の社説を執筆。15年6月から現職。16年「東芝 不正会計 底なしの闇」(毎日新聞出版)を出版。城西大非常勤講師のほか、日大経済学部などで教壇に立つ。

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