思い邪なし

思い邪なし106 鹿児島工場建設(二)

北康利 / 作家

第三章 世界を見据えて

鹿児島工場建設(二)

 利則は十分戦力となってくれたが、やがて彼を入社させたことを内心後悔し始める。

 公私の別を付けることは絶対のフィロソフィである。兄だからといって特別扱いできない。稲盛は経営者として痛々しいばかりのストイックさを見せた。それがいかに辛(つら)いことであったか。

 あれほど敬慕していた兄である。幼い頃は川で魚を捕る勇壮な姿に憧れ、家長として家族を支えてくれた頼もしい兄。何かあるたび助言を仰いだ。松風工業をすぐに辞めようとした時、自衛隊に願書を出すことを許してくれなかったからこそ、今の自分がある。

 そんな兄を、時に満座の前で叱責せねばならなくなってしまった。フィロソフィを守るということは、大変な…

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北康利

北康利

作家

1960年生まれ。東大法学部卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行。富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長などを経て、2008年みずほ証券を退職し、本格的に作家活動に入る。著書に「白洲次郎 占領を背負った男」、「吉田茂 ポピュリズムに背を向けて」など。