スキル・キャリアキャリアを築くヒント

「9割は潰される」若手が企画を通すための考え方

細川義洋 / ITコンサルタント

 先日、大手企業の取締役たちが次世代の人材育成について話し合う会議に同席しました。人生の先輩である百戦錬磨のビジネスマンの話は、傾聴すべき点が多くありました。その中で、多くの取締役が若手社員に思うこととして、「シッククラウド(分厚い雲)を突き抜けてほしい」と言っていました。

 シッククラウドは、会社組織を空に例えた言葉です。取締役層は雲の上の、自由な発想や意見を気兼ねなしに言える“いつも晴れている場所”にいます。しかし若手社員は、例えば新製品やサービスの企画、業務の改善点を思いついても、中間管理職という「分厚い雲」があり、取締役まで伝えられません。取締役層は、「若手にはシッククラウドを突き抜けて声を届けてほしい。若く思い切りのある発想を生かさないと会社の未来がない」という危機感を持っていました。

「シッククラウド」の中間管理職が果たす役割

 私はある取締役に「実際、シッククラウドを突破するのは難しいですよね」と聞きました。するとその人は、「単なる思いつきでは、聞いている暇はないですよね」と言います。そして「中間管理職は会社の規律や前例を大切にして、さまざまなリスクを考えて若手の意見を判断する。若手にはそれらを踏まえて意見してほしい」と付け加えました。

 中間管理職にも会社を守る役割があります。新しい企画があれば、考えられるリスクを十分に洗い出し、リスクが顕在化した場合に対応を講じられる見込みがなければ前に進められません。

 中間管理職がこうした役割を果たさないと、会社の仕事は“バクチ”だらけになります。下手をすれば倒産の危険もあるでしょう。若手が経営層に意見をするのであれば、シッククラウドにいる中間管理職の役割を理解する必要があります。自分の頭の中で、企画や意見のリスク回避策まで考えておくのです。

思いつきの意見ではダメ

 この話を聞いて、私自身が若手だったころのことを思い出しました。古い話ですが会社幹部との昼食会の機会があり、当時まだ出始めだった「インターネットを利用してマーケティングをしましょう」とか、営業に関して「会社の費用構造が変わらないと見積額が高くなり競合に負けます」などと意見しました。会社幹部は笑顔で話を聞くだけで、その後は何もありませんでした。

 今であれば、インターネット上のマーケティングの重要性は多くの人が認めることでしょう。そして多くの会社は長く続く低迷期やリーマン・ショックを経験し、費用構造の改善を進めてきました。当時の私の意見は、そう的外れではなかったはずです。

 後日聞いた話ですが、インターネットのマーケティングについては、ある幹部が少し興味を持ったそうです。当時の私の上司に、「実際のところできそうか」と意見を求めたそうですが、その際上司は、「彼の意見はその場の思いつきみたいなものですから」で終わらせてしまったということでした。これも一つのシッククラウドでした。

企画が通る確率を高めるための試行錯誤を

 ただ、マーケティングに関する意見を言うのであれば、そのシステムを作る費用はどうするのか、社内外の関係者にどういった影響が出るのかなど、カネとヒトに関する面は最低限考慮する必要がありました。

 例えば、システム構築には1億円かかる▽その費用として会社の新規企画用の研究予算を使えないか▽システム構築には外部の協力会社を利用して費用を削減できないか▽失敗しても現状の会社の業績なら影響は軽微──などまで見越しておくべきでした。

 もちろん若手が考えることは、経営層から見れば「甘いもの」かもしれません。ですが、考え方の方向が合っていれば、足りない部分を指摘して「もう一度考え直せ」ということができます。考え抜いた意見を中間管理職に相談すれば、一緒になって経営層に通じる企画に練り直してくれることもあるでしょう。

 若手の意見や企画は9割がたがどこかの段階で潰されるでしょう。大切なのは、自分の意見が中間管理職にはね返された場合、どういった問題や不足があったのかを振り返ることです。試行錯誤を繰り返すことで企画や意見が通る確率は高まり、自らの成長にもつながります。

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細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

1964年、神奈川県生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。NECソフト(現NECソリューションイノベータ)、日本IBMでシステム開発やコンサルティングを行う。著書に「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」「IT専門調停委員が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則」(日本実業出版社)などがある。

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