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「株主優待は違法!」赤字ローカル電鉄に下された判決

中西和幸 / 弁護士

株主優待(3)

 株主優待は、多くの個人投資家をひきつける魅力的なものです。ただ、この株主優待は法律上保証されたものではありません。過去の裁判では、赤字続きの会社が行った株主優待が違法と判断されたことがあります。

 その舞台となった会社は、「土佐電気鉄道株式会社」(以下「土佐電鉄」)といい、高知市内の路面電車や高知県内のバス事業を営んでいました。現在は、他の会社と事業統合して、「とさでん交通株式会社」となっています。

 土佐電鉄は、非上場会社であり、1962年以降長年赤字経営が続いていました。マイカーの普及などにより経営環境はますます厳しくなったものの、公共的使命から関係当局の補助金を受けながら経営を成り立たせていました。そのため、株式配当を全く行っていませんでした。

創立時から株主優待乗車証を発行

 一方、土佐電鉄は、創立当初株式を一般公募した関係上、当初から株主優待制度として株主優待乗車証(数千株を持つ株主が電車とバスに無料で乗れる乗車証)を交付していました。

 その後、運輸省(現国土交通省)から経営不振を理由に株主優待乗車証の廃止を強く要求され、回数券方式に変更しました。裁判時は、1000株につき1冊(1500円相当)、ただし1000株以上の株式所有者で500株以上の端数を所持する場合は1冊を加える、という制度に変更されました。

 多数の株式を保有している株主は1000株ごとに1冊ずつ受け取ることになりました。たとえば2万株保有していれば、20冊受け取ることになり、使い切れない株主もいたそうです。

 そのころ、土佐電鉄の株式は、1000株あたり2万6000円で取引されており、株主優待の利回りは年間6%弱でした。

高知地裁=2018年3月6日、松原由佳撮影
高知地裁=2018年3月6日、松原由佳撮影

「利益なく配当したのと同じ」と地裁が判断

 この株主優待を違法としたのは90年3月28日の高知地裁の判決です。株主の依頼に応じて会社の総務部が、株主優待乗車券の換金に応じていたこともあり、判決では、株主優待乗車券は金銭的価値を有することは明らかであるとして、配当金の支払いにかえて現物を配当するものと認定しました。

 そして土佐電鉄は、乗車券制度の発足以来、交付について株主総会の決議を経たことがないので、配当手続き(商法283条1項・現在の会社法454条1項)を免れており、また、配当可能利益がないにもかかわらず配当したことになり、配当規制(商法290条1項・現在の会社法461条1項)にも違反する、と判断しました。

 判決当時は、商法の時代でしたが、配当をするためには一定の利益(配当可能利益)がなければならないというルールがあり、これは、現在の会社法でも変わりません。

「社会通念上許される範囲内なら適法」とした判例も

 ただ、その一方で、土佐電鉄の株主優待制度自体は適法だとした判例(高知地裁84年9月30日)があります。この判例では、株主に対する優待乗車券交付制度は無償のものであるが、これが社会通念上許容された範囲内で適正に行われるかぎり、商法294条ノ2(現行の会社法では120条)の利益供与の禁止に触れるものではない、と判示しました。

 以上の判例でわかるように、長年赤字が続いている会社が行う株主優待は、違法と判断される可能性が高いのが現状です。

 株主優待に関しては、海外の株主が受け取りにくい場合があり、「株主平等の原則から言って問題だ」との主張もあるなど、いくつかの議論が交わされています。株主優待を適法とする判例が最高裁で出ておらず、法律家の視点に立てば「株主優待は会社法上、絶対に適法だ」とは言えないのです。

    ◇    ◇

 企業法務に詳しい弁護士の中西和幸さんが、企業の株式を購入し、株主になるとどんなことが待っているのかをやさしく解説します。原則、月1回掲載します。

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中西和幸

中西和幸

弁護士

1992年東京大学法学部卒。95年弁護士登録。上場企業の社外取締役、社外監査役を務め、企業法務に詳しい。共著に「会社役員の法務必携」(清文社)、「企業法務からみた株式評価とM&A手続き」(同)、「『社外取締役ガイドライン』の解説」(商事法務)、「企業不祥事インデックス」(同)など。

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