「残念な職場」の著者・河合薫さん=2018年5月29日、藤井太郎撮影
「残念な職場」の著者・河合薫さん=2018年5月29日、藤井太郎撮影

スキル・キャリア経済プレミアインタビュー

パワハラが起こらない職場に「必ずあるもの」とは

編集部

「残念な職場」著者・河合薫さんに聞く(2)

 働き方改革やセクハラ問題などに対して、企業は対応を迫られ、さまざまな対策を行うようになっている。だが実際に効果はあるのだろうか。「残念な職場」の著者で、健康社会学を研究する河合薫さんのインタビュー2回目をお届けする。【経済プレミア編集部・田中学】

 ──働き方改革が叫ばれたり、セクハラ問題にスポットがあたったりして、多くの企業が対応に追われています。有効なのでしょうか。

 ◆河合薫さん 財務省では前事務次官のセクハラ問題で、急きょ、幹部を対象にした初のセクハラ研修を開催しました。他にもパワハラに対しては、「風通しが悪い、コミュニケーションを活発に!」と言って上司と部下で声を掛け合おうとしたり、「残業をなくせ」となれば、社内の照明を定時に強制的に消灯したりしていますね。

 取材や講演会などで企業を訪ねることがあります。そうした現場で感じることが多いのが、「木ばかりを見て、森を見ていない」ということです。

 ──対症療法的な対策になっている、ということですか。

 ◆はい。個々の木に対応するのではなく、森全体を見て、その森の土壌をよくしていくのが最善です。土壌がよければいい木々が育ちます。職場で起きる問題が最終的に行き着くのは「人間関係」です。いい木々が育つ環境では、互いがフォローし合い、問題自体が起こりません。

元気な職場ではパワハラは起きない

 ──具体的には、どうすればよいでしょうか。

 ◆私が講演をしたある企業のお話をしましょう。人事担当者からは、パワハラについて話をしてほしいと依頼され、「パワハラがない職場が元気な職場なのではなく、元気な職場にはパワハラは起きません」といった趣旨のことを伝えました。

 すると、講演後に人事担当者から「私たちがやってきたことを認めてもらったようで、うれしかった」と言われました。その企業では、1990年代初頭から、パワハラ問題のために対策チームを作って取り組んでいたんです。

 ──「パワーハラスメント」という言葉が初めて使われたのが2001年です。早くから取り組んでいたのですね。

 ◆そうなんです。当初は「嫌がらせ対策チーム」といった名称で、パワハラという言葉が広まってからは「パワハラ撲滅チーム」に変更して、問題に当たっていたそうです。試行錯誤を重ねた結果、最終的にチームの名称は「コミュニケーション推進室」になりました。パワハラは職場のコミュニケーション、人間関係がうまくいっていないから起きる、という結論にたどり着いたんです。

 互いの気持ち、立場を尊重した対話の教育や、言いたいことが言えない部下と言わせない上司の間に第三者が入って風通しを良くしています。今ではパワハラだけでなく、あらゆるハラスメントの問題が少なくなっているそうです。

人のつながりの強さがある職場に

 ──「コミュニケーションを活発に!」というのは、よく言われることでは。

 ◆単純に会話が多く、社員同士の仲がよいだけでは足りません。繰り返しますが職場のさまざまな問題の根は、人間関係にあります。職場は人でできているからです。

 大切なのは、「こんなことを言ったら怒られるのではないか、評価が下がるのではないか」ということを心配せずに発言できること。専門的には「心理的安全性」と言います。例えば、上司が一方的に話すのではなく、部下がみんな遠慮なく意見を言い合える職場は「心理的安全性」が熟成されている。まるで空気のように職場に漂っています。

 ──職場で感じる不満や不安まで気軽に話せることが大切だと。

 ◆仕事のことだけに限りません。親の介護や子供の問題を抱えながら働く人は少なくありません。人間関係が悪いと、問題があっても言えずに苦しみ、最悪の場合は離職につながります。一方、自分の問題を気兼ねなく職場で伝えられれば、当の本人の負担を減らしたり、残業をなくしたりして、チーム内でフォローし合うことができます。

 元気な職場では、人と人がつながっています。役職や年齢に関係なく、互いを「ひとりの大人」として尊重しています。経営者は必ず「最後は人だ」と言う。でも、“既得権益が好きな経営層”は「人」をコストとしか考えていない。とても残念なことです。

 そもそも仕事は、人生を豊かにする行為です。それなのに、ハラスメントで苦しんだり、過労死したりするのはおかしいですよね。「働いているのは人である」という当たり前が薄れ、今は本来の働き方ができていないのではないでしょうか。「残念な職場」を働き方を見直すきっかけにしてもらえればと思います。

 <このインタビューは4回に分けて掲載します。次回「他社の成功事例をありがたがる「残念な職場」の末路」>

編集部

編集部

長く経済分野を取材してきた今沢真・毎日新聞論説委員を編集長にベテラン・若手編集者が経済・社会の最新情勢を追います。
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