スキル・キャリアキャリアを築くヒント

「成功体験と失敗体験」どちらを語る人が会社に有益か

細川義洋 / ITコンサルタント

 先日、ある生命保険会社で営業をしている大学の後輩女性から相談を受けました。新卒入社して3年目の彼女は「自分は契約の見込みのない顧客にこだわりすぎたり、仕事と関係ない顧客の要望に応えようとしたりして生産性が低い。上司からも生真面目すぎると注意される」と言います。

 実際、彼女は営業チームの中で成績は常に最下位を争う状況だそうです。ただ、私は「そのまま失敗し続けるのもいいのでは」と彼女に言いました。次のような経験があったからです。

「失敗の経験」を理由に採用

 私がIT企業でプロジェクトマネジャーを務めていたころのことです。複数のチームが関わる大規模なプロジェクトが進んでいたのですが、あるチームを管理する人手が足りず、社外から人材を募集することになりました。そして上司と私が、最終選考に残った2人を面接しました。

 2人の話は対照的でした。1人目は数々のプロジェクトを成功させた経験について、自らの工夫を織り交ぜながら話しました。一方、2人目は自分の失敗や苦しい経験について次々と話しました。

 上司と私が相談して採用することにしたのは2人目の彼でした。理由は「失敗の経験」でした。成功しか知らない、あるいは語らない人よりも、失敗経験を積極的に話す人のほうがプロジェクトの力になるという考えが、上司と一致しました。そして、その狙いは当たりました。

経験をもとにアドバイス

 入社した彼は、自分の失敗経験をもとにさまざまなアドバイスをプロジェクトにもたらしました。失敗経験は次のようなことでした。

 顧客の希望で開発中のシステムに新たな機能をつけたところ、実はそれが顧客側のたった一人の担当者の要望で、その分の費用を請求できなかったこと▽作業の進捗(しんちょく)確認でメンバーの「問題ありません」という返答をうのみにしたところ、後にそれがうそだとわかりプロジェクトが大混乱したこと──などでした。彼はそうした経験から、「何事も別の情報ルートで事実を確認することが大切だ」と訴えました。

 私を含めたメンバーたちは、彼の生々しい失敗談を聞き、同じ失敗をしないよう気持ちを新たにしました。そして、プロジェクトの進め方を考え直し、いくつかのルールを定めました。例えば、顧客からの希望があれば、必ず顧客側の複数の担当者から裏を取ること▽作業の進捗確認はあやふやな言葉ではなく、消化率などの数値で報告すること──などでした。

失敗を繰り返さないための工夫

 そうした対策が功を奏し、プロジェクトは予定通りの納期で、費用を超過することなく、無事に完了しました。IT業界では、プロジェクトの成功率は5割ほどと言われます。何事もなくプロジェクトを完了させること自体、大きな成功と言えます。

 失敗談には、成功よりも強い印象があります。また、失敗した本人が、同じことを繰り返さないための工夫を懸命に考えて実行すれば、仕事の質が上がり、自身のキャリアを築いていくことにもなるでしょう。大した失敗もせず、器用に仕事をこなしているだけの人には持ちえない力です。

 私は相談を受けた彼女にこうした話をしました。そして、「失敗し続けてもいいが、その原因を研究したり、成功するために工夫することが大切だ」とアドバイスしました。彼女の会社としては困るかもしれませんが、彼女自身には実力を高めるための機会は多くあります。

 <「キャリアを築くヒント」は毎週火曜日掲載です>

細川義洋

細川義洋

ITコンサルタント

1964年、神奈川県生まれ、立教大学経済学部経済学科卒。NECソフト(現NECソリューションイノベータ)、日本IBMでシステム開発やコンサルティングを行う。著書に「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」「IT専門調停委員が教える モメないプロジェクト管理77の鉄則」(日本実業出版社)などがある。

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