「まちゼミ」で「プロが教えるメークレクチャー講座」を行う化粧品店=筆者提供
「まちゼミ」で「プロが教えるメークレクチャー講座」を行う化粧品店=筆者提供

社会・カルチャー地域活性化の挑戦者たち

客との出会いを作る「まちゼミ」は衰退商店街の救世主

櫻田弘文 / クエストリー代表取締役

 街の商店街は地域活性化の担い手であり、コミュニティーを形成する場として機能してきたが、年々経営が苦しくなっている。1980年ごろから大型量販店やチェーン店が郊外へ出店し、商店街のある中心市街地の空洞化が全国的に進行した。近年では、ネット通販が拡大し、リアル店舗とネット販売の競争が激化。商店街の衰退に歯止めがかからない状態だ。

 そんな商店街の救世主として、注目されるのが「得する街のゼミナール」、通称「まちゼミ」だ。2003年に愛知県岡崎市で始まり、いまでは全国47都道府県の約360地域の商店街で開催されるほどの大きな動きになっている。まちゼミでは、商店街の複数の商店が同時期に店主や店員の専門知識などを生かした「商売抜き」の講座を行う。これが商店街ににぎわいと活気を作りだしている。

 この「まちゼミ」の伝道師が「岡崎まちゼミの会」代表の松井洋一郎さん(50)だ。松井さんは「まちゼミ」の普及のために、全国を日々飛び回っている。

店主の知識を生かしたイベント

 松井さんは、岡崎市の中心市街地にある商店街で化粧品店を営む「株式会社みどりや」の専務取締役で4代目だ。現在は愛知県内に5店舗を運営する。曽祖父が1922(大正11)年に創業し、92年に実質的に家業を継いだが、かつてにぎわいのあった商店街から活気がどんどん失われ始めていた。

岡崎市の化粧品店「株式会社みどりや」の専務取締役で「岡崎まちゼミの会」代表の松井洋一郎さん
岡崎市の化粧品店「株式会社みどりや」の専務取締役で「岡崎まちゼミの会」代表の松井洋一郎さん

 危機感を抱いた松井さんは、商店街の仲間や行政と協力し、歩行者天国やフリーマーケット、音楽イベントなどを行った。しかし、イベントを目当てに人は集まっても商店に入って買い物をする客は少なく、イベントが終われば閑散とした状態に戻った。それでも10年近く続けたが状況は好転せず、仲間の何人かが脱落していった。

 一向に状況が改善せず商店街の存続すら諦めかけていた時、岡崎商工会議所の職員から「店主や店員が自店に関する講座を開いては?」と提案された。これが「まちゼミ」の生まれるきっかけとなった。

 松井さんは、「商店街の各店舗には商品知識が豊富な店主や店員がいて、その人たちが作り上げた洗練された空間がある。それでも、お客さんが入ったことのない店を訪ねるのはハードルが高い。ならば、まずお客さんと店が商売を抜きにコミュニケーションできる活動をしようと思ったんです」と当時を振り返る。

始まりは岡崎市の10店舗から

 1回目のまちゼミは、03年1月に松井さんの店がある岡崎市中心部の商店街で開催された。参加店は10店舗で、松井さんの店では店頭に立つ松井さんの母がメークのレッスンを行った。30日間で参加店全体で計190人が受講したという。

 松井さんは、まちゼミ終了後すぐに反省会を開いた。参加店からは「これまでとは違った形でお客さんと接するのが新鮮だった」「お客さんの声が直接聞けてうれしかった」といった好意的な反応の声が上がった。

 手応えを得た松井さんたちは、半年に1度の頻度で継続。まちゼミと反省会を繰り返すうちに、客と接するポイントが見えてきた。それは、販売行為は一切しない▽参加料を取らない▽必ず店員が講師になる▽少人数で行う▽店内で開催する──などだ。これらが次第にまちゼミのルールとなっていった。3年ほどたつと売り上げが徐々に伸び始め、まちゼミを実施する前に比べて1.5~2倍になる商店が相次いだという。

「まちゼミ」では、商店街の各店の店主などが講師役を務める
「まちゼミ」では、商店街の各店の店主などが講師役を務める

参加店は全国1万8000店に

 16年目を迎えた「岡崎まちゼミ」は、今年は7月下旬から9月上旬まで開催。中心市街地の商店街の90店舗が参加し、受講者は毎回約1600人を数えるという。年2回実施しているので、年3200人が商店との接点を持つことになる。

文具店で行われた「初心者のための万年筆講座」
文具店で行われた「初心者のための万年筆講座」

 講座は多様だ。文具店が始めた「初心者のための万年筆講座」は、全国の文房具店が参考にする人気講座だ。ウオーキング専門店を標ぼうする靴店では「足のお悩み相談会」「外反母趾(ぼし)のための靴の選び方」が定番となっている。松井さんの店では「眉描き&アイメークレッスン」が好評で、多くのファンを獲得している。

 また、ギフト専門店では、店主の母が自分でみそを作っていたことをきっかけに「手作りみそ教室」を開いている。専門分野以外の講座を行う店も増えているのだ。

 岡崎市の10店舗から始まった小さな取り組みは、全国各地に広まっている。参加店数は1万8000店を数え、いまも増え続けているという。そして、まちゼミからは、さまざまな「副産物」が生まれている。次回、詳しくお伝えする。

   ◇   ◇

 地域の活性化を目指す数多くの取り組みが各地で行われています。全国で専門店や飲食店のブランドづくりを指導するコンサルタントの櫻田弘文さんが、具体的な取り組みと成功のポイントを探ります。「地域活性化の挑戦者たち」は原則月1回お届けします。次回は、「商店街を救う「まちゼミ」が生み出した意外な副産物」です。

櫻田弘文

櫻田弘文

クエストリー代表取締役

1955年山梨県生まれ。日本大学卒業後、78年に販売促進の企画・制作会社に入社。2001年、クエストリーを設立して独立。中小企業経営者向けの「クエストリー・ブランディングクラブ」を主宰する他、数多くの専門店や飲食店のブランディングを実践的に指導している。

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