マネー・金融ニッポン金融ウラの裏

「収入増だけが金科玉条」何もわかってない地銀経営者

浪川攻 / 金融ジャーナリスト

 銀行業界では、投資信託や保険の販売手数料といった「役務収益」と呼ばれる利益の拡大が経営戦略の中軸に据えられている。なかでも、企業向け貸し出しの伸び悩みなど資金収益の苦戦にあえぐ地銀業界では、最重要の営業施策と位置付けられている。

 だが、なかには、どう考えても合理性を欠いたやり方が営業現場を圧迫しているケースがある。経営トップが実態をきちんと認識しているのか、首をかしげざるを得ない事案もある。

 関東圏の地銀の支店で働くある銀行員は、「店の同僚と、『勘弁してほしい』と話し合っている」と訴える。その地銀は外貨建ての「貯蓄性保険」と呼ばれる商品を主力として販売している。近年、金融庁が販売手数料率の高さを問題視した商品である。それもあって、かつて7%だった販売手数料の料率は3%に引き下げられている。

毎年引き上げられる目標額

 問題はこの先である。その地銀の場合、保険の販売目標は販売件数ではなく、販売手数料収入なのだ。手数料率の引き下げに対応して、手数料収入の目標金額も引き下げられるなら問題は生じない。だが、実際には、目標額は毎年引き上げられているという。

 「手数料率が半分以下に下がって、目標金額は引き上げだから、前年の2倍以上販売をしないと目標を達成できない」わけだ。「収入の増加」が金科玉条となる半面、ほかの事情は無視され、現実感のない目標設定になっている。

 かつて、証券業界では投資信託に関して、販売手数料の販売目標を支店に割り振っていた。そうした目標のもとで顧客に対して、次々に投信商品を乗り換えさせる「回転売買」が横行していた。金融庁がこれを問題視して回転売買の自粛を強く求めた結果、投信販売の目標を手数料から顧客保有残高に転換した経緯がある。顧客保有残高とすれば、商品乗り換えの回転売買は意味を失うからである。

 この地銀の話は、回転売買の反省に立つどころか、現実離れした目標を設定する動きに拍車が掛かっているとしか思えない。

退職者の分も上乗せされ……

 一方、関西圏や中京圏の地銀に勤める営業担当者から「退職した同僚の目標額が、残った営業担当者に上乗せされる」といった怒りの声が次々と上がっている。営業担当者が減っても、期初に本部が設定した支店の目標額は変更されず、「必ず達成」となるそうだ。この話を証券関係者に伝えたところ、「証券会社もかなり前はそうだったが、今は違う」と一様に驚いていた。

 営業の最前線の現状が、遠く離れた本部に正しく伝わらず、本部側も状況を把握しようとしない。そうしたなかで、現実に基づかない戦略が練り上げられれば、おのずとその結論は見えてくるだろう。

 金融庁は地銀の内部監査の充実を訴えている。それは一つの方策だろう。だが、それ以前の極めて基本的な問題があるように見える。目標体系が現実に合致しているかどうか、地銀経営者がきちんとチェックしていないと、過剰な営業姿勢から大やけどを負うことになりかねない。スルガ銀行で発覚した不祥事は、人ごとではない。

    ◇    ◇

 金融業界を30年余にわたり取材してきた金融ジャーナリスト、浪川攻さんが「ここだけの話」をつづります。「ニッポン金融ウラの裏」は原則、週1回の掲載です。

浪川攻

浪川攻

金融ジャーナリスト

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

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