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認知症は治さなくてよい、治らなくてよい

上田諭・東京医療学院大学教授

 認知症が、大きな社会問題になっている。

 462万人(2012年現在※)にものぼるという認知症患者の数と、その急増が必至だという状況が背景にある。しかし、この「社会問題」の捉え方には根本的な心得違いがある。

 メディアも社会一般も、認知症という増幅する「困った問題」に対して、「対策」や「予防策」を提示する。認知症という現象が「悲惨な病」という言葉で語られ、その介護が「大変な労苦」という言い方で表現される。こうした否定的なとらえ方は介護者視点に偏り、あまりに一面的というほかない。そこには、もっと重要で本質的な態度であるはずの、認知症の人の存在と心情を尊重し、その人を中心に据えるという姿勢と視点が決定的に欠けている。すなわち、認知症の人を特別視せず「ふつう」の人としていかに社会が迎えるか、認知症の人の気持ちをどうやってみんなが理解できるようにするか、認知症の人の生活をいかに充実させるか。そうした見方である。それをこそ「社会問題」にすべきなのだ。

 認知症の7割を占めるアルツハイマー病について考えてみる。

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東京医療学院大学教授

うえだ・さとし 京都府生まれ。関西学院大学社会学部では福祉専攻で精神医学のゼミで学ぶ。卒後、朝日新聞に記者で入社したが、途中から内勤の編集部門に移され「うつうつとした」日々。「人生このままでは終われない」と、もともと胸にくすぶっていた医学への志向から1990年、9年勤めた新聞社を退社し北海道大学医学部に入学(一般入試による選抜)。96年に卒業、東京医科歯科大学精神神経科の研修医に。以後、都立の高齢者専門病院を中心に勤務し、「適切でない高齢者医療」の現状を目の当たりにする。2007年、高齢者のうつ病治療に欠かせない電気けいれん療法の手法を学ぶため、米国デューク大学メディカルセンターで研修し修了。同年から日本医科大学(東京都文京区)精神神経科助教、11年から講師、17年4月より東京医療学院大学保健医療学部教授。北辰病院(埼玉県越谷市)では、「高齢者専門外来」を行っている。著書に、「治さなくてよい認知症」(日本評論社、2014)、「不幸な認知症 幸せな認知症」(マガジンハウス、2014)、訳書に「精神病性うつ病―病態の見立てと治療」(星和書店、2013)、「パルス波ECTハンドブック」(医学書院、2012)など。